賃貸管理ビジネス

月刊不動産2023年10月号掲載

4つのポジションを理解して、従業員のモチベーションを高める

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役 合同会社ホーリーロッジ 代表社員)


Q

 当社は、ここ5年ほど、管理事業を強化してきました。最初は苦戦しましたが、順調に事業は拡大しています。一方で、管理戸数やオーナーが増えたことで、従業員の仕事の精度が雑になっているように感じています。細かなクレームへの対応を疎かにしたり、最優先すべきオーナーへの連絡をしていなかったりと、以前にはなかった怠慢さが出てきました。
 経営者である私と同じような気持ちで対応することは難しいかもしれませんが、もう少しオーナーに対して親身に接してあげられるのではと思ってしまいます。それができなければ、これ以上の管理事業拡大は難しいと思っています。このような状況ではありますが、何かよい手立てはありますでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     せっかく順調に管理戸数が増えても、「また余分な仕事が増えた」と感じる人は少なからず存在します。「会社は未来永劫、安定的に給料を与えてくれる」という考えが根底に眠っていると、せっかくいただいた新しいお仕事を雑に扱うことにもつながり、ひいては会社の評価を落とすことになってしまいます。
     従業員の仕事に対する考え方と、給料などの動機付けが、会社やオーナーと著しく異なることが原因です。4つのポジションを理解して、いかに従業員を教育していけるのかが解決のカギとなります。

  • 1.管理会社が増えるたびに、機械的な動きになる

     管理会社を経営すると、事業の安定化のためには、確実に管理戸数を増やしていきたいと考えるはずです。戸数が増えて事業が拡大すれば、システムの導入や仕組化により、一般的には効率化が進みます。
     一方、事業拡大による弊害もあります。それが、従業員のモチベーションです。事業が拡大すれば、物件やオーナーも増えて、やるべきことが膨れ上がっていきます。みずからの頑張りで会社が評価されることはうれしいものですが、仕事のすべてが社内の評価や自分の手取りに変わる訳ではないため、必ずしもモチベーション高くいられるわけではないのです。その結果、日々のストレスがたまっていき「やらされている感覚」が強くなって、言われたことしかできない、つまり機械的な動きしかできない従業員となってしまうのです。頑張っても頑張らなくても、同じ時間だけ働けば同じ給料がもらえるのであれば、必然的に仕事の質は低下してしまうのです。

  • 2.4つのポジションと意識の違い

     オーナーや管理会社の経営者は、それぞれ人を働かすことで収益を得るわけであり、時間で働いているわけではありません。オーナーは、管理料というお金を払い、管理会社に業務委託をして、質を求めます。また、管理会社の経営者は、従業員に働いてもらい、限られている時間のなかで最大のパフォーマンスを出してほしいと思っています。そして、そこで働く従業員はといえば、限られた時間のなかで働くことの対価として、お金をもらいます。それぞれ見ている目線の高さが違うため、考え方が食い違いがちですが、従業員を動かすためには、会社やオーナーに対するロイヤルティを強めることが重要です。図表1にあるとおり、それぞれの役割があり仕事に対する意識はさまざまです。

  • 3.スタッフに「投資」と「経営者」の目線を

     管理の現場にいる従業員は、管理戸数が増えることで作業的な仕事が膨らんでいきますから、次々にやることが増えていくことで視野が狭まり、経営者の目線とはどんどんかけ離れていきます。よって、会社に対するロイヤルティを高め、モチベーションをあげるための取り組みや仕組みづくりを経営者が考えていく必要があるのです。いくら社長がスーパーマンのように働いても、従業員が会社に対するロイヤルティをもち、行動を起こしてくれなければ、人は育たず会社は成長しません。人が育たなければ、どんなにいいシステムやテクノロジーを取り入れようとも、オーナーの満足度は上がらないでしょう。働く従業員は、誰もが評価されたいし、稼ぎたいと思っています。それらをオーナーの目的や会社のミッションに紐づけることで、効果が発揮されます。図表1の左から、できるだけ右側に近いところを経験させてあげることで目線を高めてもらいやすくなります。なお、具体的にロイヤルティを高める方法には図表2のようなものがあります。

     日常の業務だけではなく、権限や役割を積極的に与えることで、小さな成功体験を積み上げてもらいましょう。それから、投資家の目線に立つことも重要です。通常業務以外で、自らがリスクを抱えて収益を上げる投資の経験も、目線を高くできる方法の1つです。

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