法律相談

月刊不動産2017年7月号掲載

障害者差別解消法

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 当社では、身体に障害がある方から、一人暮らしをするために物件を探したいという仲介の依頼を受けた場合、「一人暮らしは無理」と丁寧に申し上げたうえで、仲介を断るようにしています。このような対応に問題はあるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 権利利益の侵害は差別的取扱いに該当

     事業者は、障害を理由として、障害者でない者との不当な差別的取扱いをして、障害者の権利利益を侵害してはなりません(障害者差別解消法8条1項)。宅建業者が、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る行為は、差別的取扱いに該当し、許されません。

  • 2. 障害者差別解消法の制定

     平成25年6月に、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)が制定され、平成28年4月に施行されました。この法律は、すべての人々が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目的とする法律です。事業者には、差別的取扱い禁止の法的な義務が課されています。

  • 3.差別的な取扱いの禁止

    1) 対応指針の作成、公表

     差別的な取扱いの禁止といっても、具体的にどのような行為が禁止されるのかを理解することは、簡単ではありません。そこで、法律上、主務大臣において、事業者が適切に対応するために必要な対応指針を定めるものとされており(同法11条1項)、不動産事業者については、平成27年11月に、国土交通大臣から、「国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」が作成され、公表されています。

     

    (2) 差別的取扱いに該当する行為の具体例

     国土交通省の対応指針には、一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断ることは、不当で許されない差別的取扱いとされています。ほかに不動産業者として不当であって許されない差別的取扱いとして、次の例があげられています。

    ・物件一覧表に「障害者不可」と記載する。

    ・物件広告に「障害者お断り」として入居者募集を行う。

    ・宅建業者が、障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。

    ・宅建業者が、賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害[身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む)その他の心身の機能の障害(難病に起因する障害を含む)]があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。

    ・宅建業者が、障害者に対して、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。

    ・宅建業者が、車いすで物件の内覧を希望する障害者に対して、車いすでの入室が可能かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。

    ・宅建業者が、障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。

     

    (3) 差別的取扱いに該当しない行為の具体例

     これに対して、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いにあたらないとされています。

  • 4.合理的配慮義務

    (1) 合理的配慮の努力義務

     障害者差別解消法は、差別的な取扱いを禁止するとともに、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない」(同法8条2項)として、合理的な配慮をすべき努力義務も規定しています(合理的配慮義務)。

     

    (2) 合理的配慮の提供の具体例

     国土交通省の対応指針では、次の行為が、積極的に行うべき行為として示されています。これらは、事業者にとって過重な負担とならないものであり、すべての業者が行うべきです。

    ・障害者が物件を探す際に、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、1軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する。

    ・車いすを使用する障害者が住宅を購入する際、住宅購入者の費用負担で間取りや引き戸の工夫、手すりの設置、バス・トイレの間口や広さ変更、車いす用洗面台への交換等を行う場合、必要な調整を行う。

    ・障害者の求めに応じて、バリアフリー物件等、障害者が不便と感じている部分に対応している物件があるかどうかを確認する。

    ・障害者の状態に応じて、ゆっくり話す、手書き文字(手のひらに指で文字を書いて伝える方法)、筆談を行う、分かりやすい表現に置き換える等、相手に合わせた方法での会話を行う。

    ・種々の手続きにおいて、障害者の求めに応じて、文章を読み上げたり、書類の作成時に書きやすいように手を添える。

    なお、これらは、すべての業者が積極的に行うべきですが、さらに、過重な負担とならないならば、図表に示した行為を提供することが望ましいと考えられています。

     

    5.まとめ

    人々の豊かなくらしについて負託を受ける宅建業者は、障害者差別解消法が目指す社会の実現に向けて、率先して活動する立場にあります。差別的な取扱いをしてはならないというルールはもちろんのこと、積極的に障害者差別解消のための合理的な配慮を提供しなければなりません。

  • Point

    • 障害者差別解消法が、平成25年6月に制定され、平成28年4月に施行された。
    • 障害者差別解消法により、事業者には、差別的取扱いの禁止(法的義務)と合理的配慮の提供(努力義務)が課されている。
    • 事業者がなすべき具体的な対応について、主務大臣が事業者向け対応指針を作成することとされており、不動産業者の事業に関しても、平成27年11月に、国土交通大臣から指針が公表されている。
page top
閉じる