税務相談

月刊不動産2016年11月号掲載

貸家の敷地の相続税法上の評価 ~貸家とその敷地を所有する個人が、子に貸家だけを贈与後に死亡した場合~

山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士)


Q

 貸家とその敷地を所有する個人が、子に貸家を贈与後、敷地を無償で貸した後に死亡した場合における、その敷地の相続税法上の評価について教えて下さい。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     ご質問の場合の貸家の敷地の相続税法上の評価は、自用地として評価を行うのが原則です。ただし、貸家に係る建物の賃貸借契約が贈与の前に既に締結されており、贈与後からその敷地の相続による取得の時までその契約が継続している場合には、例外としてその貸家の敷地は貸家建付地として評価されます。

  • 1.貸家建付地の評価の原則

     土地付き建物を所有している人が建物を他に貸付けている場合、その建物の敷地のことを「貸家建付地」といいます。貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者であっても、その敷地の処分や利用が制限されます。このため、相続税評価上、貸家建付地は土地所有者が自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(=自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価します。

  • 2. 使用貸借により土地を貸した場合の敷地の評価の原則

     使用貸借※に係る土地を相続(遺贈および死因贈与を含む。以下同じ。)又は贈与(死因贈与を除く。以下同じ。)により取得した場合、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります。

     建物の所有を目的として使用貸借により土地を借受けた場合の借主の使用権は、借地借家法が適用されず、借主には賃貸借による賃借権などの借地権とは違い、強い法的保護がなく、貸主は、その求めにより、いつでも無償で土地の返還を受けられます。したがって、借主の有する使用貸借に係る土地の使用権の経済的価値は極めて低いと考えられ、その相続税評価額はゼロとされます。つまり、使用貸借に係る土地の貸主側のその土地の相続税法上の評価は、【自用地の価額-借主の有する使用貸借に係る使用権の価額(=0)】より、自用地としての評価となります。

    ※ 親子間など信頼関係のある場合に、当事者が相手方から物を無償で借りて使用収益したあとに返還することを約して行う契約のこと

  • 3. 貸家とその敷地を所有する個人が、子に貸家を贈与し、その敷地を使用貸借により貸し付けた場合の当該敷地の相続税法上の評価

    (1)原則的な考え方

     貸家とその貸家の敷地を所有する個人が、貸家のみを子に贈与し、その敷地を子に使用貸借により貸付けている場合、貸家を贈与後のその貸家敷地の相続税法上の評価は、原則として、上記2と同様に自用地としての評価とされます。

     

    (2)貸家に係る建物の賃貸借契約が贈与の前に既に締結されており、贈与後からその敷地の相続等による取得の時までその契約が継続している場合における、その貸家の敷地の評価(⑴の例外)

      貸家に係る建物の賃貸借契約が贈与の前に既に締結されており、贈与後からその敷地の相続等による取得の時までその契約が継続している場合には、その貸家の敷地の相続税法上の評価は、上記(1)の例外として貸家建付地としての評価とされます。この場合に貸家建付地としての評価とされる理由については、「平成27年度版相続税法基本通達逐条解説」762頁~763頁、や「第四次改訂 借地権課税実務事典(日本税理士会連合会編)」234頁~236頁において解説がされており、その要旨を読みやすくまとめると次の通りとなります。

    貸家の贈与前は、貸家の所有者である個人がその敷地の所有者でもあり、貸家の所有者である個人と貸家の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、貸家の借家人は貸家を通じてその敷地利用権を有しています。その敷地利用権は敷地の所有権に対するものであり、判例(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁)において、貸家借家人の有する敷地利用権は貸家が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしています。つまり、借家人の権利の保護の観点から、その貸家の譲渡(贈与や相続による所有権の移転も含むと解されます)により、貸家自体の土地に対する利用権が使用貸借によるものになっても、借家人の従前の敷地の所有権に対する敷地利用権が、敷地の使用貸借による利用権(ゼロ評価)に対する敷地利用権に変わることはないということです。

     表題の場合の貸家の借家人(賃借人)は、相続等により新たにその貸家の敷地の所有者が変わっても、それより前の贈与の前に取得している貸家の敷地に対する利用権は侵害される(変わる)ことなく有しているということですから、その敷地は、相続等で誰に取得されても、引き続きその処分や利用が(貸家建付地と同様に)その利用権により直接制限されるといえるので、表題の場合の貸家敷地の評価額は自用地としての評価額から貸家建付地と同等の減額を行うのが当然といえます。

     

     以上により、貸家に係る建物の賃貸借契約が贈与の前に既に締結されており、贈与後からその敷地の相続等による取得の時までその契約が継続している場合における貸家敷地の相続税法上の評価は、上記(1)にかかわらず、貸家建付地としての評価とされます。

  • Point

    • 質問の場合、貸家の贈与の前後でその貸家の借家人が異動しているかどうかにより、貸家の敷地は相続税法上、自用地または貸家建付地として評価されます。
    • 一例として、貸家(借家人:㈱A)とその敷地を所有していた個人Xが、①平成22年9月にその貸家のみを長男に贈与し、②貸家の贈与後、その敷地を長男に無償で貸付して、③平成28年10月に死亡した場合において、④Xの死亡時における貸家の借家人がその贈与前と同じ㈱Aであるときは、貸家の敷地の所有者が相続により誰になっても、敷地の所有者は借家人である㈱Aの敷地利用権に係る義務を負い、引き続き処分や利用を制限されることから、Xに係る相続税の計算上、その貸家の敷地については貸家建付地として評価されます。
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