法律相談

月刊不動産2019年1月号掲載

競売手続きによる買受人に対する通行地役権の主張

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

私の土地は公道に面していないので、公道への通路部分の土地所有者の了解をもらい、通行地役権を設定しています。地役権の登記はしていません。ところが、今般、この通路部分の土地について抵当権が実行され、所有権が買受人に移転してしまいました。土地の買受人に対して、通行地役権の主張をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.本来は登記なければ主張不可

    通行地役権の登記がなされていませんので、本来は通路部分を取得した第三者に対して通行地役権を主張することはできません。ただし、継続的に通路として使用されていることが位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、抵当権者が抵当権設定時にそのことを認識していたか、または、認識することが可能であったときには、買受人に対して、通行地役権の主張をすることができます。

  • 2.通行地役権

     土地が公道に面していないときには、他人の土地を通って公道との出入りをする必要があります。他人の土地上の通行を確保するための物権の性格をもつ権利が、通行地役権です。通行地役権は、通路部分の土地所有者との間で、公道に接しない土地を要役地(権利の設定によって便益を得る土地)、通路部分を承役地(権利の設定によって便益を与える土地)として、契約を締結することによって設定されます(民法280条)。
     ところで、物権は、特定の人にだけ権利主張をすることができる債権と異なり、広く誰に対しても主張できる権利です。そこで、取引の安全を確保するため、不動産に関する物権変動は登記によって公示され、登記をしなければ、権利を第三者に対抗することはできないものとされています(同法177条)。通行地役権も、その登記をしておかなければ、本来は承役地を取得した第三者に対して権利を主張することはできません。
     もっとも、ここでいう第三者は、登記の欠缺(登記を欠いていること)を主張するについて正当な利益を有する者に限定されます。そのため、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない第三者に対しては、登記がなくても、権利を主張できます。
     最高裁平成25年2月26日判決(判時2192号27頁)では、承役地が競売手続きによって買い受けられた場合に、買受人が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に該当するかどうかが問題とされました。

  • 3.最高裁平成25年2月26日判決

     「通行地役権の承役地が担保不動産競売により売却された場合において、最先順位の抵当権の設定時に、既に設定されている通行地役権に係る承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、上記抵当権の抵当権者がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、特段の事情がない限り、登記がなくとも、通行地役権は上記の売却によっては消滅せず、通行地役権者は、買受人に対し、当該通行地役権を主張することができると解するのが相当である。上記の場合、抵当権者は、抵当権の設定時において、抵当権の設定を受けた土地につき要役地の所有者が通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができる上に、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。これらのことに照らすと、上記の場合には、特段の事情がない限り、抵当権者が通行地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは信義に反するものであって、抵当権者は地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらず、通行地役権者は、抵当権者に対して、登記なくして通行地役権を対抗することができると解するのが相当であり(最高裁平成10年2月13日第二小法廷判決)、担保不動産競売により承役地が売却されたとしても、通行地役権は消滅しない。これに対し、担保不動産競売による土地の売却時において、同土地を承役地とする通行地役権が設定されており、かつ、同土地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用され、そのことを買受人が認識していたとしても、通行地役権者が承役地の買受人に対して通行地役権を主張することができるか否かは、最先順位の抵当権の設定時の事情によって判断されるべきものであるから、担保不動産競売による土地の売却時における上記の事情から、当然に、通行地役権者が、上記の買受人に対し、通行地役権を主張することができると
    解することは相当ではない」。

     

  • 4.まとめ

     土地の売買を行う場合、接道に関する調査を行うことは、不動産仲介の基本です。公道に面していない土地の場合に、取引対象としてどのように取り扱うかは、慎重かつ柔軟な対処が求められますが、通行地役権に関する知識も重要です。本稿で紹介した最高裁の考え方についても、正しく把握しておく必要があります。

今回のポイント

●通行地役権を設定すれば、公道に面しない土地について、通路を確保することができる。通行地役権は、物権として強い権利である。

●通行地役権は、公道に接しない土地の所有者と通路部分の土地所有者との間で、公道に接しない土地を要役地(権利の設定によって便益を得る土地)、通路部分を承役地(権利の設定によって便益を与える土地)として、契約を締結することによって設定される。

●通行地役権は、物権だから、登記をしなければ第三者に権利を主張することはできない。

●しかし、継続的に通路として使用されていることが位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、抵当権を設定する時点で、抵当権者がそのことを認識していたかまたは認識することが可能であれば、競売手続きにおける買受人は、登記の欠缺を主張できる第三者にあたらないから、通行地役権を有する者は、登記がなくても通行地役権を買受人に主張することが可能である。

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