法律相談

月刊不動産2018年3月号掲載

空家売買の媒介報酬

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 当社では、遠隔地の空家について、売却仲介の依頼を受けました。空家は老朽化しており、売買代金は200万円程度になりそうです。現地への交通費等の調査費用を報酬に含めて請求できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.交通費等の調査費用を含めて請求できる

     所定の媒介報酬に加え、現地への交通費等の調査費用を含めて、売主に報酬として請求することができます。ただし、あらかじめ報酬額について売主に対して説明し、了解を得ておかなければなりません。

  • 2.社会的な状況

     現在、空家問題への対応が重要課題となっています。空家は、放置すれば防犯防災上問題を生じ、地域の安全を害するおそれの大きい有害な存在ですが、他方で、移住、二地域居住、起業、コミュニティ活動等の場となりえる社会的資源であるため、マッチングの機会を拡大し、空家等の流通を促進することが、強く求められています。

     しかし、売買を媒介する観点からすると、遠隔地における老朽化した空家の現地調査等には通常より調査費用等がかかるにもかかわらず、物件価額が低いことから成約しても報酬が伴わず赤字になってしまいます。そのために、媒介業務に要する費用の負担が宅地建物取引業者の重荷となって空家等の仲介が避けられる傾向がありました。このような状況を鑑み、平成29年12月8日に報酬告示が改正され(平成30年1月1日施行)、低廉な空家等の報酬の額について、特例が設けられました(報酬告示第七・第八)。

  • 3.報酬告示による特例

    今般の改正によって認められたのは、次のような特例です。

    (1) 低廉な空家等

     特例が適用される低廉な空家等は、価額が400万円以下の金額の宅地建物の売買または交換の媒介・代理である。この場合の価額には消費税等相当額を含まない。

    (2)現地調査等に要する費用を含めた報酬請求

     低廉な空家等の売買・交換の媒介・代理では、通常の売買・交換の媒介・代理と比較して現地調査等の費用を要するものについて、一般の計算方法により算出した金額と、空家等の売買・交換の媒介に係る現地調査等に要する費用に相当する額を合計した金額以内で報酬を請求することができる。

    (3)報酬の上限

     依頼者から受ける報酬の額は 18 万円の1.08 倍に相当する金額を超えてはならない。

    (4)売主等から受ける報酬であること

     特例に基づき宅建業者が受けることのできる報酬は、空家等の売主または交換の依頼者から受けるものに限られる。相手方から受ける報酬については、一般の計算方法による。

     (5)現地調査等に要する費用に相当する額

     現地調査等に要する費用に相当する額には、人件費等を含む。

     (6)あらかじめの承諾

     宅建業者は、媒介契約の締結に際し、あらかじめ報酬額について空家等の売主・交換の依頼者に対して説明し、両者間で合意する必要がある。

     (7)代理について

     代理に関しても、一般の計算方法により算出した金額と媒介に関する特例規定により算出した金額を合計した金額以内で報酬を受けることができる。ただし、宅建業者が売買・交換の相手方から報酬を受ける場合においては、その報酬の額と代理の依頼者から受ける報酬の額の合計額が、通常の計算方法により算出した金額と上記の特例規定により算出した金額を合計した金額を超えてはならない。

  • 4.空家に関する最近の施策

     ところで、空家については、平成26年に「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策法)」が成立しており、また、地方公共団体で条例が制定されるなど、多くの対策が講じられていますが、最近創設された仕組みとして、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」に基づく、住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録制度があります。この制度は、空家・空き室を活用して、高齢者、低額所得者、子育て世帯等の住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録を行うものであって、平成29年10月25日に施行されています。所有者にとっては登録住宅の改修に対する支援措置を、利用者にとっては入居負担軽減のための支援措置を受けられるなどのメリットがあります。現在は制度が始まったばかりでまだ利用数は多くありませんが、これから普及していくと思われます。

  • 5.まとめ

     今般の報酬に関する特例は、空家の流通促進の観点から、空家等の低額物件の媒介には現地調査等の費用がかさむことを踏まえ、宅建業者の負担の適正化を図るために設けられた規定です。また、賃貸人が住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の仕組みも創設されています。宅建業者の皆さまには、これらの制度を活用し、空家の増加を防ぎ、人々の共通の資産である土地と建物が有効に活用されるようご尽力いただくことが、期待されています。

  • Point

    • 空家問題は社会的に深刻な問題となっている。
    • 空家対策として、平成26年11月に空家対策法が成立、多くの条例が制定されているが、加えて、宅建業法の媒介報酬に関しての特例が設けられ、住宅セーフティネット法に基づく住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録の制度が開始した。
    • 宅建業法の媒介報酬に関しての特例は、①低廉な空家等(価額が400万円以下)の売買について、②売主から依頼を受けた場合の仲介報酬には、③売主があらかじめ承諾していれば、現地調査等に要する費用を含めた報酬請求をすることができる(上限18万円の1.08倍に相当する金額)というものである。
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