税務相談

月刊不動産2016年3月号掲載

相続人による不動産貸付業以外の事業の転・廃業と特定事業用宅地等に係る相続税の小規模宅地等の特例

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長)


Q

被相続人が不動産貸付業以外の事業を営んでいた宅地を相続した相続人が、相続税の申告期限までにその事業の転・廃業を行った場合における、相続税の小規模宅地等の特例の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

    被相続人が営んでいた事業の用に供されていた宅地を相続により取得したその親族が、その宅地について後述の「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例」の適用を受けるためには、その事業を被相続人に係る相続税の申告期限まで継続して営む必要があります。

  • 1. 特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例

     相続税の小規模宅地等の特例の対象となる宅地は、その宅地の用途により「特定事業用宅地等」「特定居住用宅地等」「貸付事業用宅地等」等に分かれ、それぞれ限度面積と減額割合が定められています。このうち「特定事業用宅地等」については、一定の申告手続により被相続人に係る相続税の計算上、その宅地等の地積400㎡まで、その宅地等の評価額の80%相当額が減額されます(租税特別措置法第69条の4第1項、第2項)。

     「特定事業用宅地等」とは、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族の事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に関する権利をいう。)で、次に掲げる要件のいずれかを満たすその被相続人の親族が、相続又は遺贈により取得したものをいいます(同第3項第1号)。

    (1)被相続人の親族が、相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、その事業を営んでいること。

    (2)被相続人と生計を一にしていた親族で、相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有し、かつ、相続開始前から相続税の申告期限まで引き続き、その宅地等を自己の事業の用に供していること。

  • 2.事例による相続人による事業の転・廃業と小規模宅地等の特例の適用の可否の検討金と利息の関係

     「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例」の適用を受けるためには、その事業を被相続人に係る相続税の申告期限まで継続して営む必要があります。このため、被相続人が事業を営んでいた宅地を相続した相続人が、相続税の申告期限までにその事業の転・廃業を行った場合は、小規模宅地等の特例の可否について慎重な検討を要します。

     相続人が被相続人の事業を転・廃業した場合における、相続税の小規模宅地等の特例の適用について、事例によりその適用の可否を検討すると、次の通りとなります。

  • 【事例】

     被相続人甲は、所有する建物(2階建て)の1階及び2階で飲食業を営んでいました。この建物とその敷地である宅地Aを相続により取得した甲の長男(甲と生計別)が、甲が営んでいた飲食業について次の廃業又は転業を行った場合、甲に係る相続税の計算上、宅地Aに係る小規模宅地等の特例の取扱いはどのようになるのでしょうか。

     

    (ケース1)

     被相続人甲から建物とその敷地の宅地Aを相続した長男が、その相続税の申告期限までに、その建物で営まれていた飲食業を廃業し、建物と宅地Aを譲渡した場合(ケース2) 被相続人甲から宅地Aを相続した長男が、その相続税の申告期限までに、その宅地上で営まれていた飲食業の一部を小売業に転業した場合

     

    (ケース2)

     被相続人甲から宅地Aを相続した長男が、その相続税の申告期限までに、その宅地上で営まれていた飲食業の一部を小売業に転業した場合

     ケース1の場合、被相続人(甲)の親族(長男)が、相続開始時から相続税の申告期限まで引き続き宅地Aを有しておらず、かつ、その事業(飲食業)を営んでいないことから、前述1.(1)の要件を満たしていません。したがって、この場合の宅地Aは特定事業用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。また、被相続人から事業用宅地等を相続により取得した親族が、被相続人の事業とは全く別の事業に転業した場合(=事業の全部の転業)には、前述1.(1)の要件を満たさないことから、その宅地等は明らかに特定事業用宅地等には該当しません。

     これに対し、ケース2のように被相続人(甲)の事業を引き継いだその被相続人の親族(長男)が、その事業の一部を転業する場合には、被相続人の事業の承継は認められることから、上記のような被相続人の全部転業と同様に取り扱うことは適当とは言えません。

     そこで国税庁は、租税特別措置法通達69の4-16の前段により、その宅地等で営まれていた被相続人の事業の一部を他の事業(不動産貸付業等以外の事業に限る。)に転業し、相続税の申告期限までに被相続人の事業と転業後の事業の両方を営んでいる場合には、他の

    要件を満たす限り、その親族が被相続人の事業を営んでいるものとして特定事業用宅地等に該当すると取り扱っています。

     以上により、ケース2の場合、甲から宅地Aを相続した長男は、宅地Aにおいて甲の事業である飲食業と転業後の小売業の両方を営んでいることから、被相続人の事業を継続して営んでいるものとされ、他の要件を満たす限り、宅地Aは特定事業用宅地等に該当し、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

     

  • Point

    • 上記ケース1の場合、被相続人甲が飲食業を営んでいた宅地Aを相続した長男は、甲に係る相続税の申告期限までに、その事業を廃業し、かつ、宅地Aを譲渡していることから、宅地Aは「特定事業用宅地等」に該当せず、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
    • 上記ケース2の場合、被相続人甲が飲食業を営んでいた宅地Aを相続した長男は、甲の事業の一部を小売業に転業していますが、甲に係る相続税の申告期限まで甲の事業である飲食業も継続して営んでいることから、他の要件を満たす限り、宅地Aは「特定事業用宅地等」に該当し、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
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