法律相談

月刊不動産2017年12月号掲載

田園住居地域

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 用途地域の種類が増えると聞きました。どのような用途地域が、いつから追加されるのでしょうか。また、このことは、不動産取引とどのように関連するのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 平成30年4月から導入

     田園住居地域という住居系の用途地域が追加されます。田園住居地域は、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定められる地域です。平成30年4月に都市計画法上の新たな規制の仕組みとして導入され、その後、各地域のまちづくりのプランの中で具体的な指定がなされていくことになります。

     田園住居地域が指定されることは、宅建業法との関係では、説明すべき重要事項が追加になることを意味します。加えて、実際の不動産取引との関連でみると、数年後に都市部の農地が大量に売りに出される可能性があるといわれており、田園住居地域の指定は、都市部の農地の取引量増加と並行して、理解をしておくべきテーマです。

  • 2. 都市計画の概要

     さて、人々の快適で住みやすい暮らしのためには、計画的に都市づくりを進めなければなりません。計画的な都市づくりのための基本法は都市計画法であり、都市計画法に基づき、都市計画区域において、都市計画が決定されます。

     都市計画区域内の都市計画としては、地域地区を定めることができます(都市計画法4条3項、8条1項)。地域地区は、土地の計画的な利用を図る目的をもって定められる制度です。地域地区の1つが用途地域です。従来12種類のものがありました(図表参照)。

  • 3.田園住居地域

    (1)田園住居地域の創設

     平成29年4月に都市計画法が改正され、新たに13番目の用途地域として、田園住居地域が設けられました(改正後の同法8条1項1号、9条8項。平成30年4月施行)。用途地域の追加は、平成4年6月の都市計画法改正によって8種類から12種類に増えて以来(平成5年6月施行)、25年ぶりです。田園住居地域は、都市機能に農業が含まれるという考え方に立つ仕組みであり、今般の改正には農地を都市の構成要素として位置付けるという意義があります。

    (2)田園住居地域内における建築制限

     現行法上は、市街化区域では、生産緑地を除き、宅地化を規制する定めはありません。これに対し、田園住居地域では、住居としての利用と農地としての利用の均衡を図ることを目的として、地域内の農地(耕作の目的に供される土地)について、土地の形質の変更、建築物の建築その他工作物の建設または土石その他の政令で定める物件の堆積を行おうとする者は、市町村長の許可を受けなければならないものとされます(都市計画法52条1項本文)。

    (3)重要事項としての田園住居地域の説明

     用途地域による規制は、土地の利用に対して重大な制限を加えるものであって、宅建業法上、宅建業者が説明すべき重要事項です。都市計画法によって田園住居地域が追加され、新しい土地利用規制ができましたので、宅建業法も改正となり、宅建業者が宅地建物取引士をして宅地建物の売買等の契約の成立までに相手方等に説明をさせなければならない法令上の制限等として、田園住居地域内の農地における建築等の規制、および、田園住居地域内における用途規制に関する規定(建築基準法48条8項)が加わります。

  • 4.都市農地の取引に関する見通し

     ところで、都市の農地については、平成4(1992)年に重要な制度が創設されています。すなわち、当時はまだ宅地を増やすことが社会的に必要だと考えられており、都市部に残る農地を宅地化する方針が示されました。他方で、所有者が農業を続けることを前提に、保全すべき農地が生産緑地として指定されました。生産緑地の指定を受けると、農業継続を条件に、固定資産税を大幅に減免したり、相続税の支払い猶予が受けられたりすることとされました。

     この制度のもとでは、生産緑地指定後30年が経過すると、農地の所有者は、地元の自治体に農地の買取りを求めることができるようになります。自治体が買い取らない場合、自治体は買取りが求められた農地を他の農家へ斡旋します。それでも買い手がつかない場合、所有者は農地を不動産業者などに売ることが可能になります。制度が始まってから30年経過するのが2022年です。国土交通省によると、2022年に指定の期限を迎える生産緑地は全体の8割とのことであり、多くの所有者が高齢化や税金対策を理由に売却を検討しているようです。都市部においては、農地が宅地化され、一気に売りに出されるだろうといわれています。

  • 5.まとめ

     田園住居地域が創設されること、および、2022年には生産緑地指定が始まってから30年が経過するために、不動産市場に宅地が大量に流入してくることは、不動産業者にとってとても重要な課題です。これらの課題に対する対処を始めるべき時期がきています。

  • Point

    • 田園住居地域は、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定められる地域である。
    • 田園住居地域は13番目の用途地域として新設され、その仕組みの運用は、平成30年4月に開始する。
    • 田園住居地域に指定されると、その地域内では土地の形質の変更、建築物の建築その他工作物の建設が規制される。
    • 2022年には生産緑地の指定が始まってから30年が経過するために、都市の農地の多くが宅地化されて売りに出されるだろうと予想されている。
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