労務相談
月刊不動産2025年9月号掲載
外国人技能実習生を受け入れる際の 社会保険加入について
特定社会保険労務士 木村 彩(社会保険労務士法人 大野事務所)
Q
弊社では近いうちに外国人技能実習生を受け入れる予定があります。実習生は3年後には帰国する予定ですが、それでも社会保険に加入しなければならないのでしょうか。加入が必要な場合、将来の厚生年金給付はどうなるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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外国人が日本で働く場合、日本の社会保険制度に加入する必要がありますが、社会保障協定締結国から5年以内の見込みで派遣される外国人については、加入が免除されることがあります。なお、日本の年金制度に10年以上加入した場合には老齢年金を受給できますが、受給要件を満たさない外国人が日本を出国した場合、脱退一時金を請求できます。
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社会保険の加入要件
外国人が社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用事業所で働く場合、日本人と同じように社会保険に加入する必要があります。正社員、契約社員、パート・アルバイト等の雇用形態にかかわらず、社会保険の加入要件に該当する者(1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の者など)は被保険者となります。
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二重加入と年金受給資格
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社会保障協定
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厚生年金の脱退一時金
●脱退一時金の支給要件
厚生年金保険は、主に老齢厚生年金の受給を目的にしていると考えられますが、滞在期間が短く、保険料納付が老齢給付に結びつきにくいという外国人特有の事情を踏まえ「脱退一時金制度」が用意されています。これは老齢厚生年金の受給資格期間(保険料納付・免除期間10年以上)を満たさずに日本を離れる場合に請求することができるものですが、脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。【脱退一時金支給要件】
✓日本国籍を有していないこと
✓公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でないこと
✓厚生年金保険(共済組合等を含む)の加入期間の合計が6月以上あること
✓老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていないこと
✓障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがないこと
✓日本国内に住所を有していないこと
✓最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していないこと
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していないこと)
●脱退一時金の計算式と計算例
厚生年金保険の脱退一時金の支給額は、被保険者であった期間に応じ、図表3の計算式のとおりとなります。また、計算例もご確認ください。 -
外国人労働者への説明
これまで説明してきたとおり、日本の社会保険制度は、企業や従業員の希望により加入するものではありません。社会保障協定の締結も現時点では2 3カ国となっていますが、全ての外国人労働者・技能実習生に適用できるものではありません。また、脱退一時金といった外国人労働者のための救済措置が設けられていますが、外国人労働者が日本の社会保障制度になじみがないことは事実です。給与額から保険料を控除されることに不満を持つこともあるようですので、社会保険加入について外国人労働者に説明する際のポイントを列挙します。
◯社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)の半分を会社が負担すること
◯病院・歯科医院で治療を受けたときの窓口負担が原則医療費の3割と低額になること
◯健康保険で認定された扶養家族の医療費が保険料の追加負担なくカバーされること
◯就労ビザ変更の条件に社会保険の加入が含まれること
◯厚生年金保険には、保険料の掛け捨てを防止するため脱退一時金制度があること