税務相談

月刊不動産2020年10月号掲載

住宅ローン特別控除の適用者が居住用財産を譲渡して
3,000万円控除の適用を受けた場合の所得税の取扱い

税理士 山崎 信義(税理士法人タクトコンサルティング 情報企画部部長)


Q

 個人が新築または取得等をした家屋(以下「新規住宅」)を居住の用に供し、所得税の住宅ローン特別控除の適用を受けた後、新規住宅以外の資産を譲渡(以下「従前住宅の譲渡」)し、その従前住宅の譲渡につき3,000万円控除の適用を受けた場合の、所得税の取扱いについて教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     個人が新規住宅を居住の用に供した日の属する年(居住年)の翌年以後3年以内の各年中に、従前住宅の譲渡をし、その従前住宅の譲渡につき3,000万円控除等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けた場合、その居住年以後の各年分につき、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。

  • 1. 3,000万円控除の概要

     個人が自己の居住用財産を譲渡した場合には、一定の要件を満たすことにより譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円を控除できる特例が設けられています。これが「3,000万円控除」です。
     3,000万円控除の対象となる居住用財産には、①居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋と、②①の家屋とともに譲渡したその敷地の用に供されている土地等が含まれています[租税特別措置法(以下「措法」)35条2項2号]。

  • 2. 住宅ローン特別控除の概要

    (1)概要
     個人が2 0 2 1 年1 2月3 1日までに、国内で住宅の用に供する家屋で床面積が5 0㎡以上などの要件を満たすものの新規住宅をその個人の居住の用に供した場合において、その個人がその家屋の新築等に係る借入金( 住宅借入金)の額を有するときは、一定の要件を満たすことにより、その居住の用に供した日の属する年以後1 0 年間( 原則)の各年のその個人の所得税の額から、住宅借入金の年末残高に基づく一定の金額が控除されます(措法41条)。

    (2)居住用財産譲渡に係る特例の適用を受けた場合の住宅ローン特別控除の不適用
     個人が新規住宅を居住の用に供した場合において、その居住の用に供した日の属する年(居住年)の翌年以後3年以内の各年中※に、従前住宅を譲渡し、その従前住宅の譲渡につき3,000万円控除等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けるときは、その居住年以後の各年分につき、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません(措法41条21項)。つまり、居住年の翌年以後3年間は、3,000万円控除と住宅ローン特別控除との併用ができないことになります。
    ※2020年度税制改正により、2020年4月1日以後の従前住宅の譲渡につき、その譲渡の時期が上記の下線部のとおりに改められました(図表参照)。

    (3)3,000万円控除の適用を受ける場合の修正申告
     (2)の場合に、既に居住年以後の各年分について住宅ローン特別控除の適用を受けたときは、従前住宅の譲渡をした日の属する年分の確定申告期限までに、各年分の所得税の修正申告書または期限後申告書を提出し、特別控除額に相当する税額を納付する必要があります(措法41条の3第1項)。

  • 3. 設例による住宅ローン特別控除の適用者が3,000万円控除の適用を受けた場合の所得税の取扱いの解説

     前述2.(2)と(3)の取扱いについて設例を基に解説をすると、下記のとおりになります。

今回のポイント

●上記3.の設例において、Aさんが2020年以降引き続き住宅ローン特別控除の適用を受けるよりも、3,000万円控除の適用を受けたほうが所得税の総額の負担が少なくなる場合には、Aさんは2017年から2019年までの各年分の所得税につき修正申告書を提出し、住宅ローン特別控除の適用を撤回(=特別控除額に相当する税額を納付)することにより、3,000万円控除の適用を受けることが可能です。

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