法律相談

月刊不動産2021年3月号掲載

マンション内でのフラワーアレンジメント教室

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

マンション購入を検討している顧客から、居室でフラワーアレンジメント教室を開くことができるかどうか質問を受けました。ある程度の人数を集めて週5日程度実施したいとのことです。管理規約では専有部分の用途は住居専用とされています。どのように回答したらよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 回答

     管理規約で専有部分の用途が住居専用とされている場合には、ご質問のようなフラワーアレンジメント教室を開くことは管理規約違反になると考えられます。購入を検討している顧客には、このような行為は管理規約に違反する旨をあらかじめ説明する必要があります。

  • 2. 宅建業法の定め

     さて、宅建業法では、マンションの一室の売買の仲介を行うにあたって「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容」を重要事項として説明しなければならないものと定められています(宅建業法35条1項6号、同法施行規則16条の2第3号)。ここで「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め」には、「例えば、居住用に限り事業用としての利用の禁止、フローリングへの貼替工事、ペット飼育、ピアノ使用等の禁止又は制限に関する規約上の定めが該当する」と解説されています(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方第35条第1項第6号関係3)。
     したがって、仲介業者は、管理規約において、専有部分の用途が住居専用とされていることを購入検討客に説明しなければなりません。

  • 3. フラワーアレンジメント教室の開催

    1. 住居専用規定に違反するかどうか
     次に、フラワーアレンジメント教室を開催することが、住居専用とされている管理規約に違反するかどうかを考える必要があります。
     マンションの専有部分(本件では居室)で行うフラワーアレンジメント教室が、住居専用とする管理規約に違反するかどうかが問題とされた裁判例が公表されています( 東京地判平成元. 5 . 1 7(2019WLJPCA05178016))。
     「毎月5回から7回程度、午前10時30分から午後3時までまたは午後1時30分から午後5時までの時間帯で開催され、参加人数は少なくとも2名から6名程度、費用は通常のコースで1回当たり8,800円程度(指導料・花材費込み。入会金5,400円)」というフラワーアレンジメント教室(本件教室)について、「本件居室において、不特定多数の者が参加できる形で、事業としてフラワーアレンジメントの教室を営んでいるというべきであり、専有部分を住居の目的以外に使用するものといわざるを得ず、本件教室は住居専用規定に違反する」と判断されました。

    2. 居住用建物としての平穏さが確保されていれば管理規約に違反しないのか
     区分所有者Xからは「住居専用規定に違反するかは、日常的な寝食のための居住用建物としての平穏さが確保されているか否かで判断されるべきであり、住居専用規定も『主として住宅として使用するものとし、他の用途に供することを主としてはならない』と読むべきところ、本件教室は、毎月5回から7回、1回当たりせいぜい数時間程度しか開催されておらず、趣味のフラワーアレンジメントの技術を友人・知人に教えるものにすぎない」として、「住居専用規定には違反しない」との主張がされていました。
     しかし、判決では「住居専用規定は、本件マンションの住民らの平穏で静謐な居住環境を維持するために、本件マンションの用法を居住用に限定し、不特定又は多数人が出入りすることが想定される事業用として利用することを一律に禁止する趣旨の規定であると解するのが相当であり、平穏な用法あるいは主たる用法でなければ事業のために利用することを許容しているものとは解されない。そして、Xが供述するところによっても、本件教室には直接の友人・知人にとどまらず、それらの者から口コミで紹介を受けた受講者も通い、Xは、受講者から材料費以外に入会金や指導料を受け取り、体系的なレッスンコースを設けて、毎月5回から7回にわたって定期的に開催しているものである。Xが実際に利益を得ているかどうかはともかく、本件教室の運営が事業の性質を有していることは明らかであり、本件教室を『ホームパーティ』や『友人を招いて一緒に飲食したり共通の趣味を行ったりする社交の場』と同列に考えるのは無理があるというべきである」として、Xの主張を認めませんでした。

今回のポイント

●宅建業法により、マンションの専有部分の仲介業務を行う仲介業者は、重要事項として、「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め」の説明をしなければならない。
●「専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め」としては、例えば、居住用に限り事業用としての利用の禁止、フローリングへの貼替工事、ペット飼育、ピアノ使用等の禁止または制限に関する規約上の定めが該当する。
●毎月5回から7回程度、午前10時30分から午後3時まで、または午後1時30分から午後5時までの時間帯で開催され、参加人数が2名から6名程度というフラワーアレンジメント教室に居室を供することは、「専有部分の使用を居住用に限る」という管理規約に違反する。

一覧に戻る
page top
閉じる