賃貸管理ビジネス

月刊不動産2021年3月号掲載

コア事業に専念して、一歩先の管理会社へ

今井 基次(株式会社ideaman 代表取締役)


Q

順調に管理受託が増えつつあるのですが、人材不足により現場の業務が追いついていません。「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」や「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」などで、これまで非効率だった仕事は減らすことができているようですが、結局はどこまでいっても「人が人を管理」しなければならないようです。限られた人材でどのようにすれば会社全体の労働生産性が向上するのか、良いアドバイスはないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     管理会社の役割は、「オーナーの資産(収益)を最大化」させることです。オーナーの目標を達成できるようにするためには、作業的な仕事ばかりではなく、高い収益性が見込める労働生産性の高い仕事にシフトする必要があります。人数体制を無理に広げようとするのではなく、限られた人員で労働生産性の高い仕事に集中し、「コンサルタント」へのシフトを実践してみましょう。

  •  ここ数年、賃貸管理業へ事業をシフトさせている会社が増えていますが、管理が増えることでそれなりの人材補充が必要となります。しかし管理が増えるのはよくても、その分人を増やしていけば、利益体質になることがなかなか難しくなります。DXやRPAのおかげで業務効率を上げることは良いのですが、手が空いた分、どの業務をやるべきかがいちばんの課題となります。DXを進めるよりも前に社員自体が「作業体質」から「思考体質」へ「PX(パーソナル・トランスフォーメーション)」しないことには、労働生産性が上がるどころか業務がただラクになるだけで、社員のスキルが衰えるばかりとなってしまいます。
     管理会社がオーナーから与えられている命題は「資産(収益)の最大化」です。これは、不動産管理会社がオーナーのブレーンとなり、収益(家賃や稼働率)を高め、経費を下げて経常利益を上げていく、つまり「経営コンサルティング」をすることにほかなりません。日常的に賃貸管理で発生するような細かな作業に没頭していては、到底経営コンサルティングをするスキルは身に付けられないということです。
     日常的な管理業務の優先順位としては、①緊急性のある業務(クレーム対応など)、②納期のある業務(出納業務、レポート提出など)、③オーナーへの改善提案(空室対策)、④コンサルティング(資産活用や節税対策)となります。しかし労働生産性を考えた場合、どうなるでしょう。緊急性のある業務や納期のある業務は、当たり前にこなす必要はありますが、そこから新たなる収益を生む可能性は非常に低いはずです。それとは逆に、オーナー提案やコンサルティングなど、資産設計に食い込むようなことができれば、生産性が高まります。したがって、多くの管理会社が行っている仕事の優先順位と労働生産性は、実は「負の相関関係」となるのです(図表1)。

     つまり、細かな作業に真面目に没頭するほど、労働生産性は下がり社員のスキルアップも図れなくなります。やがて仕事への面白みも消えて、離職へとつながり、会社の戦力も下がってしまいます。例えば、業務の全てを他社に再委託をかけて(またはテクノロジーの活用とあわせて)、少ないフィーでもオーナーとの接点に注力したほうが、クリエイティブ(創造的)な時間を作ることもでき、社員の満足度も上がります。さらに、経営管理に集約して資産設計や売買仲介、タックスプランニング、建築企画プロデュース、オーナーとのリレーション構築をしていくほうが、自社の収益的にも価値が出やすくなります。
     また、管理戸数が増えていくとオーナーとの接点が減り、いつの間にか物件の管理離れが発生してしまいます。これは、オーナーが必要としている情報やコンタクト回数が減ることで、オーナーが発信しているはずの課題や必要な情報を管理会社がつかみ切れていないことに原因があります。
     管理会社にとって最良のシナリオとは、①オーナーから物件売却(資産設計)の相談を受け、②売却が決定したら専任媒介をもらい、③自社の管理物件オーナーに物件を検討/購入してもらい、④そのまま管理を継続してもらうことです。逆に最悪のシナリオは、①オーナーから売却する旨の連絡が届き、②すでに買主が決定しており、③買主が委託する管理会社がすでに決まっていること、となります。せめて、買いか売りの媒介をもらうか、管理がそのまま継続できればよいのですが、両方とも失うということは、すでにオーナーと管理会社との距離が離れており、一番の稼ぎどころを失っていることにほかなりません。つまり、管理戸数が増えたことで、むしろ機会損失を起こしているのです(図表2)。


     管理受託を増やすことは非常に重要な課題である一方、まずは増やすための体制作りが必要となります。その最たるものが労働生産性であり、可能であれば社員の8割が「経営コンサルタント」になれることが、管理会社の生労働産性が最も高まることにつながるといえるでしょう。

今回のポイント

●ルーティンワークをこなすのは大前提。オーナーの「経営コンサルティング」を意識することが肝要。そのためにはオーナーとの接点を緊密にする。
●オーナーから発信される課題やニーズを常につかむことが、オーナーと管理会社、双方の収益の最大化につながる。

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