税務相談

月刊不動産2018年10月号掲載

アパートの庭に借家人が無断駐車した場合の措置

江口 正夫(海谷・江口・池田法律事務所 弁護士)


Q

 6世帯用のアパートを賃貸しています。敷地はそれほど広くありませんが、各隣地との境にはブロック塀を設置して区分しています。先日、入居者から、別の入居者の1人が車を購入し、庭部分に駐車を始めたが迷惑なのでやめさせてほしいとの連絡がありました。早速、現地に行ってみると、確かに狭い庭の半分以上を占める場所に車が駐車されていたため、持ち主である借家人に駐車をやめるよう注意したところ、持ち主は「建物を借りた者は、当然、建物使用の目的の範囲内で敷地を利用できるはずだ。建物を自宅として利用する以上、昨今では車を使用するのは当たり前であり、目的の範囲内の使用であるから文句を言われる筋合いはない」と言って応じてくれません。建物を賃貸した以上、敷地を駐車場として利用することを認めなければならないのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

     借家人は、賃貸借契約の目的とされた建物だけではなく、その建物を利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用を随伴してすることができると解されており、例えば、借家人が庭に草花を植えることは敷地の通常の使用と解されています。他方で、賃借人は、建物の性質により定まる用法に従って利用をする義務も負うと解されています。駐車場として敷地を利用することは、例えば一軒家の貸家であれば、具体的な事情のもとでは、その建物を利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用であると判断されることはあり得ますが、6世帯のアパートの狭い庭の半分以上を占有する態様での使用となると、当該借家人の借家権の割合を超え、他の借家人の使用を妨げる形での使用として、用法違反と解されるおそれが高いと考えられます。賃貸人は、用法違反をしている借家人に違反行為をやめるよう求めることができ、何度も請求したにもかかわらず、賃貸人の指示を無視して駐車を続ける場合には、借家人の用法違反が信頼関係の破壊に至ったものとして契約の解除をすることも可能です。

  • 1.賃貸借契約における賃借人の義務

     建物賃貸借契約を締結したことにより賃借人の負う義務は、賃貸人に対する賃料支払義務だけではありません。その建物の使用方法について契約や慣習により定めがある場合には定められた用法に従い、契約や慣習による定めがない場合は、建物の性質により定まる用法に従った使用収益をする義務を負うことになります。この用法遵守義務に違反した場合は、借家人の債務不履行となり、賃貸人は用法違反による使用収益の停止を請求できます。また、借家人が賃貸人の指示に従わず、当事者間の信頼関係を破壊するに至ったときは、賃貸人は契約の解除をすることができるとされています。

  • 2.建物借家人による建物敷地の利用

     借家人は、賃貸人との間で、建物の賃貸借契約を締結してはいますが、土地について賃貸借契約を取り交わしているわけではありません。しかし、建物の借家人は、賃借建物に出入りするためには敷地を通行しなければならず、敷地を利用することなく建物を使用収益することは不可能です。このため、家屋の賃貸借においては、その家屋に居住し利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用は随伴的なものとして認められるというのが裁判所の考え方です(東京高判昭和34年4月2 3日)。「その家屋に居住し利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用」とは、一般的には借家人が庭に植栽をすることなどと解されます。

  • 3.アパートの借家人による敷地の利用

     アパートの借家人は、アパートの居室を使用収益する上で必要な範囲で敷地を利用することは認められています。また、一軒家の貸家のような場合には、貸家の敷地を利用するのは当該借家人だけということになりますので、その家屋に居住し利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用は当然に認められることになるといってよいと思われます。

     一軒家で、板垣やブロック塀などで区画されている場合は、その敷地に草花を植えたり、自家用車を駐車させたりすることも、原則として、その家屋に居住し利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用と認められることになるものと考えられます。

     しかし、アパートのような集合住宅においては、その敷地もアパートの入居者全員が使用するものですから、自ずと制限があることになります。例えば、アパートの賃貸借契約において、各借家人が使用できる敷地部分が区画されている場合は、借家人はそれに従うことになりますが、そうした定めがなければ、各借家人は借家権の割合に応じ、敷地を共同利用する関係に立ちます。したがって、6世帯のアパートで、1人の借家人が敷地の半分以上の土地に自己の車両を駐車させ、他の借家人からクレームが出されるという状態は、「その家屋に居住し利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用」とはいえず、当該借家人の用法遵守義務違反になると解されます。

  • 4.用法遵守義務違反をした借家人に対する措置

     賃貸人は、用法違反をしている借家人に違反行為をやめるよう求めることができ、何度も請求したにもかかわらず、賃貸人の指示を無視して駐車を続ける場合には、借家人の用法遵守義務違反が信頼関係の破壊に至ったものとして契約の解除をすることも可能です。

  • Point

    • 賃借人の義務は賃料支払義務に限られず、契約や慣習または建物の性質により定まる用法に従って使用収益をしなければならない、という用法遵守義務を負う。
    • 建物の賃借人は、建物のみではなく、その建物を利用するため必要な限度で、その敷地の通常の方法による使用を随伴してすることができる。
    • アパート等の集合住宅の借家人は、借家権の割合に応じ、敷地を共同利用する関係に立つため、借家人の1人が敷地のかなりの部分を自己の専用駐車場として使用することは用法遵守義務に違反する。
    • 賃貸人は、用法遵守義務に違反した借家人に対し、その違反行為の停止を請求し、借家人がそれに従わず、当事者間の信頼関係を破壊するに至った場合は、当該借家人との賃貸借契約を解除することができる。
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