法律相談

月刊不動産2016年12月号掲載

おとり広告

渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所 弁護士)


Q

 インターネットで賃借人募集の広告をしている賃貸マンションについて不動産業者に問い合わせをしたところ、すでに契約済みだといわれ、別の物件を紹介されました。広告に出ていたマンションは、すでに2か月前に契約済みで、取引できない物件だったとのことです。

 不動産業者がこのような広告をしていいのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • Answer

    この不動産業者の行為はおとり広告です。宅建業法第32条および不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)第21条に違反するものであって、許されません。

  • 不動産広告のルール

     不動産広告には、宅建業法、および、不動産の表示に関する公正競争規約(以下、「表示規約」という)の2つのルールがあります。

     宅建業法上のルールは、誇大広告の禁止(宅建業法第32条)、広告開始時期の制限(同法第33条)、取引態様の明示(同法第34条第1項)の3つです。

     表示規約は、不動産業界が自主的に定め、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)の規定に基づき公正取引委員会の認定を受けたルールです。宅建業法が、基本的な禁止事項を定めているのに対し、表示規約は、消費者が不動産を選ぶ場合に必要と考えられる事

    項を積極的に表示するべきであるという考え方に基づき、きめ細かくルールを決めています。

  • おとり広告

     売る意思のない物件や売ることのできない物件について広告を行うことを、「おとり広告」といいます。おとり広告は、広告をみて集まる客に対し、その物件はすでに売れてしまったなどと称して、ほかの物件を紹介して押しつけるこになるので、宅建業法と表示規約のいずれにおいても、禁止されています。

    (1 )宅建業法上によるおとり広告

    の禁止(宅建業法第32条) 宅建業者が広告をするときは、①著しく事実に相違する表示、および、②実際のものよりも著しく優良もしくは有利であると人を誤認させるような表示をしてなりません。これらの規制を、誇大広告の禁止といいます(宅建業法第32条)。おとり広告は、広告で売買すると表示した物件と、現実に売買しようとする物件とが異なりますので、著しく事実に相違するものであり、誇大広告です。物件が既に契約済みで、取引できなくなっているにもかかわらず、そのままインターネットに広告表示を続けることは、売ることのできない物件について広告をすることになり、おとり広告となり、禁止されます。

     おとり広告に対しては、誇大広告の禁止に違反したものとして、指示(同法第65条第1項、第3項)、業務停止(同法第65条第2項、第4項)、情状が特に重いときは免許取消し(同法第66条第1項9号)という処分を受けることがあります。さらに、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金の定めもあります(同法第81条第1号)。

    (2 )表示規約によるおとり広告の

    禁止(同規約第21条) 表示規約は、

    ① 物件が存在しないため、実際には取引することができない物件

    ② 物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない物件

    ③ 物件は存在するが、実際には取引する意思がない物件

    について、広告表示を禁止しています(表示規約第21条)。おとり広告は、実際には取引の対象となり得ない物件に関する表示に該当し、表示規約違反です。

     表示規約違反に対しては、景品表示法によって措置命令が出され、この命令に従わないときは2年以下の懲役または300万円以下の罰金などの罰則を受けることがあります(景品表示法第6条、第15条第1項・第2項)。

  • インターネット広告の特性とおとり広告

     インターネット広告は、現代社会における不動産広告において、欠かすことのできない重要な広告媒体です。最新の情報に更新しやすいという特性があり、そのため一般消費者からみると、常に新しい物件の広告が掲載され、かつ、広告された物件は実際に取引することができるものと認識されます。しかし、現実には、契約が成立して決済に至り、広告表示から削除しなければならない多くの物件が、そのまま残されています。このような状況を作出することは、おとり広告に関する宅建業法と表示規約に違反しているといわざるを得ません。故意におとり広告を利用することだけではなく、物件の成約状況の広告表示における管理・確認が不適切であることも、宅建業者の社会に対する裏切り行為であり、重大なルール違反です。

     首都圏不動産公正取引協議会によると、全国で2015年度に認知したおとり広告などの不当表示は前年度の1.6倍の3,619件となっており、消費者庁からも業界団体に取り締まりの強化が要請されています。

     ルールの無視は、宅建業者の信頼を失います。インターネットは重要な広告媒体であり、インターネット広告においても、宅建業者は、ルールを守って、業務を行わなければなりません。

  • Point

    • インターネット上で広告した物件を、契約後にもそのまま削除せずに残したままにしておくことは、おとり広告です。
    • おとり広告は、宅建業法第32条および不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)第21条に違反します。
    • おとり広告が横行しており、消費者庁から取り締まりの強化が要請されています。
    • おとり広告禁止違反には、宅建業法上、指示・業務停止・免許取消しという処分があり得るし、懲役・罰金の定めもあります。景品表示法上は、措置命令が出され、命令に従わないときは、懲役・罰金などの罰則を受けることもあります。
    • おとり広告は宅建業者の社会に対する裏切り行為であり、重大なルール違反であることを、十分に認識しなければなりません。
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