法律相談

月刊不動産2006年7月号掲載

電子メールによる業務報告

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

売買の専任媒介契約における業務処理の状況について、電子メールによって報告することにしてもよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  媒介契約書に電子メールで業務を報告する旨の定めがあれば、電子メールによる報告が可能です。

     さて媒介行為が売買などの契約成立に向けて尽力奔走する行為であり、依頼者の意向にそって依頼者のために行うものである以上、媒介における受任業務も、当然依頼者に業務処理の状況を報告しながら進めていく必要があります。

     この受任業務の報告に関しては、媒介契約が準委任の性格をもつことから、民法の原則に従うならば、依頼者から請求があったとき及び委任業務の終了するときに報告をすれば足りるということになりそうです(民法643条、656条、645条)。

     しかし宅地建物の売買の媒介についてみると、宅地建物という重要な財産の取引を任せられているのですから、依頼者から請求があったときに業務報告を行うだけでは到底十分とはいえないでしょう。依頼者からの請求の有無を問わず、契約の相手方を探索するために行った指定流通機構への依頼物件の登録や広告、引き合いの状況などを定期的に報告することによって、依頼者にとって安心して業務を任せ続けることができますし、受任者たる業者にとっても、信頼関係を維持することが可能となります。

     そのため宅建業法では、専任媒介の依頼を受けている業者に対し、「2週間に1回以上」の業務処理状況の報告義務を課しています(宅建業法34条の2第8 項)。業者は依頼者からの請求があると否とにかかわらず、「2週間に1回以上」の定期的な報告をしなければならないわけです。

     ところで業者は売買の媒介契約を締結したときは、必要事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者に交付しなくてはなりません(宅建業法34条の2 第1項)。この書面作成・交付義務に違反した場合には、国土交通大臣又は都道府県知事によって必要な指示がなされ(同法65条1項)、あるいは業務の全部又は一部の停止処分を受けることもあり得ます(同法65条2項)。

     媒介の書面の作成・交付は、必要事項を記載した契約書(媒介契約書)の取り交わしによって行うのが普通です。そして媒介契約書の標準的なひな型として標準媒介契約約款が定められています(平成17年3月28日国土交通省告示第356号)。国土交通省はこの標準媒介契約約款の利用を推奨しており、規則でも、業者が媒介契約書を作成するには、「当該媒介契約が国土交通大臣が定める標準媒介契約約款に基づくものであるか否かの別」を記載しなければならないとされています(同法34条の2第1項7号、同法施行規則15条の7第4号)。媒介契約書を作成するにあたり、標準媒介契約約款を利用しない場合には、その旨を明記しておかなければなりません。

     平成17年3月、標準媒介契約約款が改正されて同年7月から施行され、電子メールを利用した報告が認められました。電子メールは、作成が容易であって瞬時に送付先に伝達できるという利点をもちます。依頼者との間の密度の濃い文字によるコミュニケーションを可能にする通信手段です。電子メールを使える環境にある業者は、業務を円滑に取り進めるため、電子メールの積極的な利用に取り組むべきです。

     電子メールを使えば頻繁に報告を行うことが容易になります。標準媒介契約約款の改正により、媒介契約書が「2週間に1回」よりも、より頻繁な業務報告を定めることのできる書式に変更になっています。電子メールを利用できる場合には、2週間に1回という頻度にこだわらず、できるだけ頻繁に業務を報告すべきだと思われます。

     法律上、単なる専任媒介ではなく、依頼者が自ら探索した相手方であっても、業者が探索した相手方以外の者と契約を締結することができない専属専任という媒介契約も認められていますが、法律上「1週間に1回以上」という厳しい報告義務が課されていたため、従来あまり利用されていませんでした。電子メールによる報告であれば「1週間に1回以上」の報告も困難ではありません。電子メールの利用により、専属専任媒介契約も従来と比較して締結しやすくなったということができるでしょう。

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