法律・税務・賃貸Q&A

鍵交換費用の負担

弁護士 江口 正夫
海谷・江口法律事務所

質問

「鍵交換費用は借家人負担」との広告をして契約したのに、借家人が鍵交換費用を支払わない場合には、盗難等の損害は借家人負担と考えてよいでしょうか。

月刊不動産2007年12月号掲載
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回答


1. 鍵交換費用は借家人負担とする広告の位置づけ

 賃貸アパートの広告チラシ等に、鍵の交換費用は借家人負担とする旨を明記しているものがあります。そのチラシによる広告活動を行い、借家人と契約を締結した場合に、賃貸借契約書にもチラシと同じく「鍵交換費用は借家人の負担とする」との条項が規定されていれば問題はありません。

 しかし、広告には鍵交換費用は借家人負担とうたっているのに、賃貸借契約書には鍵交換費用に関する事項は一切規定されていないような場合には、鍵交換費用は借家人負担とする旨の契約が成立しているか否かが問題になります。

 なぜなら、チラシ広告はあくまで広告であって、賃貸借契約のお誘いの文書にすぎません。その結果、客がついて実際に契約交渉した結果、チラシとは異なる内容で契約することも十分あり得ることです。その場合には、チラシと実際の契約とは内容が異なるわけですから、チラシと実際の契約内容とが異なる場合には、①チラシとは別の内容で契約している場合、②チラシに記載された内容を承認した上でチラシの内容どおりに契約しているが、ただ単に契約書面に記載していない場合、の2つの場合が考えられることになります。

2. チラシ広告と異なる賃貸借契約の解釈

 上記①②のいずれであるかは、実際に契約した当事者の意思がいずれであったかによって、具体的なケースごとに異なることになります。例えば、借家人が広告チラシを見ることなく、個人的なつてを頼って契約にこぎ着けたような場合には、賃貸人と借家人との間には鍵交換費用は借家人負担との約束は成立していないと解される場合が多くなります。

 したがって、オーナーとして賃貸借契約を締結する場合には、相手方に要求したい内容は、チラシへの記載の有無にかかわらず、必ず賃貸借契約書に具体的に書き込むことが最も重要であるということになります。

3. 鍵交換費用が支払われない場合の措置

 借家人との間で「鍵交換費用は借家人負担」との契約が成立していることを前提とすると、借家人が契約に反して鍵交換費用を負担してくれない場合には、賃貸人は鍵を交換しないで放置しても構わないと考えることはリスクがあると認識しておくべきです。

 「鍵交換費用は借家人負担」という特約は、「鍵の交換は借家人がその費用負担で自ら行う」という内容の特約と全く同じ意味ではありません。

 後者は、鍵の交換は借家人自らが自分の費用で実施するという意味ですが、前者の「鍵交換費用は借家人の負担」という特約は、文言上は、その費用は借家人が負担するというだけのことであって、誰が鍵を交換すべきかについて直接定めているわけではありません。

 それでは、賃貸人には鍵交換の義務があるのかということですが、住居として部屋を賃貸する以上は、少なくとも住居としての安全を保てる空間を提供する義務はあると考えます。仮に、賃貸人が部屋を何回も賃貸し、借家人が交代しているのに一度も鍵を交換しなかったとした場合、借家人の一人がその部屋の鍵を複製し、その複製鍵で部屋に何者かが侵入したという事件が発生した場合には、鍵を全く交換していなかった賃貸人側が責任を取らされる可能性があります。

 したがって、「鍵交換費用は借家人負担」との特約があるにもかかわらず借家人が鍵交換費用を支払わないとしても、賃貸人としては鍵の交換を適切に行う必要があると思われます。その上で、交換費用を借家人に請求するということになります。

4. 特約によるリスクの回避の可能性

 賃貸人がリスクを回避する目的で、「賃貸人は鍵交換をしなかったことに対する損害は一切賠償しない」との特約を賃貸借契約書に設けておけば、損害賠償を請求されることはないと考えてよいのか、ということですが、賃貸アパート、賃貸マンションの賃貸借契約は借家人が個人である場合は借家人は消費者に該当し、消費者契約法(平成13年4月1日施行)が適用されることに注意する必要があります。消費者契約法では、消費者の権利を制限し、消費者の利益を一方的に害する条項等は無効とすると定められているからです。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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