法律相談

月刊不動産2005年3月号掲載

重要事項説明の基本

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

重要事項説明をしようとすると、購入者や賃借人から「説明を受けなくてもかまいません」と言われることがあります。購入者や賃借人の承諾があれば、重要事項説明をしなくても差し支えはないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  買主・借主から重要事項の説明を省略してほしいといわれても、重要事項説明を省略することはできません。業者は必ず説明を行う必要があります。
     宅地建物の売買・賃貸は、生活や営業の基盤を形づくる重要な取引です。宅地建物は大きな価値のある財産であり、一般の方はそれほど度々取引に関与することはありません。しかも権利関係や法令上の制限など取引の前提として理解しておかなくてはならない複雑な事項がたくさんあります。
     そのため宅地建物取引業法35条により、業者は、売買・賃貸の契約が成立するまでの間に、書面を交付し、買主・借主に対し、取引主任者をして一定の重要な事項の説明をさせなければならないものとされています。買主・借主が購入や賃借の前に宅地建物とその取引条件に関する重要事項を理解し、十分な情報を得た上で宅地建物を購入賃借するかどうかを判断できるようにしているわけです。仮に買主・借主が望まなかったとしても、説明の省略は認められません。
     重要事項の説明は、売買・賃貸の契約が成立する前に行わなければなりません。その説明時期については、購入や賃借の意思決定に先だって、宅地建物に関する情報や取引の条件を理解しておくことが説明の目的ですので、契約の直前に行うことは望ましくありません。購入や賃借を検討できる時間的な余裕のある段階において説明をすべきです。
     次に重要事項の説明には書面交付が必要です。説明すべき事項は複雑多岐にわたり、とても口頭で理解してもらえる内容ではありません。そこで書面を交付して説明することが法律上の義務とされています。法律に定められた事項を記載して交付される書面が、重要事項説明書です。
     重要事項として説明すべき事項、すなわち重要事項説明書に記載すべき事項は、大別すると、宅地建物に関する事項と取引の条件に関する事項に分かれます。
    宅地建物に関する事項としては、①登記されている権利、②法令による制限の概要、③私道負担、④飲用水、排水、電気、ガスに関する事項、⑤宅地造成又は建築工事の完了前の宅地建物については完了時における形状、構造等、⑥区分所有物については建物の敷地の権利や共用部分に関する事項等であり、取引の条件の関する事項としては、①売買代金や賃料以外に授受される手付金や敷金の額、その目的、②契約解除、③損害賠償の予定又は違約金、④手付金保全措置を講ずべき場合における保全措置の概要、⑤支払金・預り金の保全措置の概要、⑥ローンのあっせんの内容とあっせんによるローンが成立しないときの措置などです。これらの事項はどれひとつをとっても軽んじることのできないものばかりです。業者は専門家として自ら十分にその内容を把握して準備をした上で、買主・借主に説明をするようにしなければなりません。
    取引主任者が重要事項説明をするには、宅地建物取引主任者証を提示しなければなりません。この提示義務は、買主・借主から提示の要求があったかどうかにかかわりません。提示を求められなくとも自らすすんで提示をすることが法律上の義務です。
    重要事項説明書には、説明に関する責任の所在を明らかにするため、取引主任者の記名押印が必要です。
    買主・借主が一般の消費者ではなく業者である場合でも、説明義務は免れません。
    法律上重要事項を説明しなければならない相手方は、買主・借主です。売主・貸主に対する説明は法的な義務とはされていません。しかし売主・貸主も取引の条件を十分に理解してから取引をするかどうかを決めるべきですので、業者は、売主や貸主にも重要事項を説明しておいたほうがよいと考えられます。
    重要事項説明の制度は、直接的には取引当事者の利益を図るものですが、単に取引当事者の利益となるだけにはとどまりません。取引当事者が安心して取引ができるようになることにより不動産取引への信頼性を高めることにもなりますし、さらに業者自身にとってトラブルに巻き込まれないための重要な防御策でもあります。業者は常に重要事項説明の意義を確認しておかなくてはなりません。

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