法律相談
月刊不動産2011年6月号掲載
遺言者死亡以前の推定相続人の死亡
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
Aの相続人が複数であるとき、そのうちの一人であるBに相続させる旨の遺言は、Aより先にBが死亡した場合、効力があるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.遺言者Aより先に推定相続人Bが死亡した場合には、原則として、遺言は効力を生じません。
(Aにおいて、Aの死亡以前にBが死亡した場合、Bの代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情があれば、例外的に効力を生じることになります)
2.遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生じます(民法985条1項)。
遺言者が死亡したときに、遺言によって財産を取得することとなっていた推定相続人が生存していれば、当然に推定相続人が財産を取得します。
しかし、遺言者死亡の前に、遺言で財産を取得することとなっていた推定相続人が死亡していた場合に、遺言の効力が失われるのか、あるいは、推定相続人の子が代襲相続(同法887条2項)するのかが、問題となり、下級審の判断が分かれていました。
3.最高裁は遺言の効力が失われると判断をしました(最高裁平成23年2月22日判決)。
事案は、次のとおりです。
①BとXはAの子であり、YらはBの子である。
②Aは、平成5年2月17日、財産全部をBに「相続させる」旨の公正証書遺言をした。この遺言はAの遺産全部をBに単独相続させる旨の遺産分割の方法を指定するものであり、A死亡時Bが生存していれば、遺産は直ちに相続によりBに承継される効力を有する。
③平成18年6月21日にBが死亡し、その後同年9月23日にAが死亡した。
④遺言の効力が争いになり、高裁は、Bが先に死亡したことによって遺言の効力を失ったと判断したが、Yらは、遺言は効力を失わずBの代襲者であるYらがAの遺産を代襲相続すると主張し、最高裁の判断を仰ぐこととなった。
4.最高裁の判断は次のとおりです。
『遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。
このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって、「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況等から、遺言者が、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
本件において、BはAの死亡以前に死亡したものであり、本件遺言書には、Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく、BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上、本件遺言書作成当時、Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから、上記特段の事情があるとはいえず、本件遺言は、その効力を生ずることはないというべきである。』
5.不動産は財産の中の大きな割合を占めます。
したがって、相続が発生したとき、相続関係の処理のためには、不動産の権利関係を整理することが重要になってきます。
相続に関連し、不動産取引が行われるケースは少なくありません。宅建業者が依頼者に対して誤った情報を提供すると、混乱を招き、トラブルが発生してしまいます。宅建業者の業務においては様々な専門知識が求められますが、高齢化社会である現在では、相続の知識も必須ということがいえましょう。