法律・税務・賃貸Q&A

遺留分侵害額の請求

弁護士 渡辺 晋
山下・渡辺法律事務所

質問

 民法(相続関係)の改正によって、遺留分の制度が見直され、中小企業の事業承継を行いやすくなったと聞きました。どのような改正がされたのでしょうか。また、円滑な事業承継のために、ほかにどのような制度があるのでしょうか。

月刊不動産2020年10月号掲載
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回答

1. 民法の特例により円滑な事業承継へ

 2018(平成30)年に民法(相続関係)が改正され、遺留分の仕組みが改められています。改正前には、遺留分権利者には物権的な請求権が認められていましたが、改正後には遺留分権利者の権利は金銭請求となり、これによって、事業承継へのひとつの支障が取り除かれることになりました。また、2008(平成20)年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)が制定され、同法では遺留分について、民法の特例が認められているため、その特例を利用すれば、民法の遺留分の制約に縛られることなく、事業承継を行うことができます。

2. 遺留分の制度

 遺留分は、被相続人の相続財産の中で、兄弟姉妹以外の相続人のために留保される取り分です。相続人の生活を保障する、相続人間の公平を図るなどの目的のために、被相続人の遺言と贈与による自由な財産処分に制限を加え、遺留分権利者の取り分を確保することができるように、民法に定められています(民法1043条、1046条)。
 遺留分が認められる遺留分権利者は、妻、子(子がいなければ孫)、直系尊属です。兄弟姉妹には、遺留分の権利はありません。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合は1/3、それ以外の場合は1/2です。

3. 民法(相続分野)改正による遺留分の制度の見直し

(1)民法(相続分野)改正
 民法のうちの相続分野については、1980(昭和55)年に法定相続分を改める改正があってから40年間、大きな改正はありませんでした。しかし、その間、高齢化が進み、情報化社会が進展するなど、社会は大きく変化しています。そのために、2018(平成30)年に、相続についての民法改正が行われました。高齢化した被相続人の配偶者の権利を強化し、また、遺言を利用しやすくするなどの見直しが行われました。いずれの改正も2020(令和2)年7月までに施行されています。

(2)遺留分の制度の見直し
 改正前の従来の民法では、遺留分権利者には、遺留分を侵害する遺贈・贈与を減殺し、遺留分権利者が保持すべき財産を物権的に回復する権利が認められていました(遺留分減殺請求権)。請求権を行使すると、請求の範囲で贈与・遺贈の効力が失われ、現物による返還義務が生じることになります。 しかし、このような構成は、法的に複雑で混乱を招きがちであり、事業者の事業承継にも支障を生じさせます。
 そこで、改正によって、遺留分制度は再構成され、遺留分権利者の権利について、物に対する権利ではなく、侵害額の金銭請求(計算方法は図表)を認めるものに改められました(金銭債権化)。これによって、中小企業の経営者個人の相続においても、遺留分権利者との関係を金銭によって清算することが可能になり、経営のための物的な資源を、円滑に承継することができるようになっています。

4. 経営承継円滑化法

 2008(平成20)年に制定された経営承継円滑化法では、民法の特例を定めており、経営承継円滑化法に定められた手続きを踏むことによって、民法による遺留分の制約を受けずに、事業を承継させることができます。特例において想定されているのは、①相続財産のうちのある物の価額を遺留分算定基礎財産に算入しない仕組み(除外合意)、②遺留分算定基礎財産に算入すべき価額をあらかじめ固定する合意(固定合意)の2つです。会社の経営の承継の場合は①・②のいずれか一方または双方を、個人事業の承継の場合には①のみを利用することができるものとされています(中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル「民法特例」。令和元年7月中小企業庁財務課)。

5. まとめ

 日本の経済は、中小企業が支えています。しかしながら、中小企業でも経営者の高齢化が進んでおり、また、コロナ後の新しい社会への対応も急務です。中小企業の経営が円滑に後継者に承継されていくことは、個々の企業にとって必要であるだけではなく、社会の要請でもあります。中小企業の経営者のみなさまには、事業承継の新たな仕組みを理解したうえで、十分に制度を活用し、円滑な事業承継を進めていただきたいと考える次第です。

今回のポイント

●民法は、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分の権利を認めている。遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人のために留保される取り分であって、相続人の生活保障や相続人間の公平確保のために認められる権利である。
●民法(相続分野)の改正によって、遺留分権利者の権利が、物権的な請求権(遺留分減殺請求権)から、金銭請求に改められた。
●遺留分の制度の見直しにより、中小企業の事業承継にあたって、柔軟な対応をすることが可能になった。
●経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例を利用すれば、民法の遺留分の制約に縛られることなく、事業承継を行うことができる。

※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

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