法律相談

月刊不動産2005年1月号掲載

違約金の定め方

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社は土地を購入しましたが、売主から、引渡し前に代金を支払ってほしいという申し入れがありました。期日に引渡しができなかったときの違約金を取り決めた上で了承しようと思いますが、違約金の決め方に制約はあるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  不動産の引渡遅滞による違約金は、原則として当事者が自由に決めることができますが、当事者間の合意が暴利行為として公序良俗に違反する場合には、合意の一部又は全部が無効となります。
     さて民法では、債務の不履行について損害賠償の額を予定することが認められており、損害賠償の額が予定されたならば、裁判所はその額を増減することができません(民法420条1項)。違約金を定めた場合には、違約金は損害賠償の額の予定を意味するものと推定されます(同条3項)。
     他方で民法は、公序良俗に違反する事項を目的とする法律行為を無効としています(同法90条)。損害賠償の額(違約金)の合意に関しても、予定賠償額が実際に生じた損害に比べて著しく過大である場合には、合意がなされたとしても、暴利行為であって、公序良俗に違反するものとして無効となります。
     ただし具体的にどのようなケースにおいて公序良俗違反と認定されるのか、どのような要素が重視されるのか、無効とされる場合の無効の範囲はどこまでなのか等は、法律の定めからは明らかではなく、裁判例を参考にして、検討する必要があります。
     売買代金1億838万4,000円、平成11年11月30日に物件を引渡しかつ残代金を支払うとされていた売買契約において、売主が10月中の先行支払を希望し、これに対し、買主が①11月30日までに引き渡せない場合には1日5万円の使用損害金を支払い、②12月15日までに引き渡せない場合には500万円の遅延損害金を加算、③その後まだ引き渡せないときは更に15日ごとに500万円ずつの遅延損害金を加えるという条件をもって、売主の希望を了承して合意が成立して先行支払がなされたものの、物件が第三者である会社の社員寮として使用されていたために、結局明渡しが翌平成12年8月30日まで延びてしまった事案があります。この場合の①ないし③による損害金予定の合意が公序良俗に違反するものであるかどうかが争われました。
     裁判所は、「本件合意は、この種の売買契約における違約金の約定としては、引渡遅滞により買主が被ることが予想される損害の程度と比較して著しく高額であると認められる。したがって、本件合意は、これを全部無効とするまでには至らないが、本件事案に応じた適正な賠償予定額を超える部分については公序良俗に反するものとして無効になると解するのが相当である。そして、本件における適正な賠償予定額は、売買契約において当事者間において合意された、売買代金額1億838万4,000円の2割相当額である2,167万6,800円をもって相当とすべきであるから、本件合意のうち、右金額を超える部分は、暴利行為であって民法90条により無効であると解すべきである。」と判断しました(東京地裁平成13年2月27日判決)。
     ところで損害賠償の額の予定(違約金)については、民法のほか、消費者契約法と宅建業法の定めにも留意しなければなりません。
     売買契約が消費者契約に該当する場合には、消費者契約法により、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものについて、その超える部分が無効となると定められています(消費者契約法9条1号)。消費者契約法には、消費者の利益を一方的に害する条項が無効とされるという定めもあります(同法10条)。
     また売買契約の売主が宅建業者であるときには、宅建業法により、債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2を超えることとなる定めをしてはならない、と定められており(宅建業法38条1項)、この規定に反する特約は、代金の額の10分の2を超える部分について、無効となります(同条2項)。ただ業者間取引の場合には、損害賠償の額の予定等が代金の10分の2を超えても、ただちに無効となることはありません(同法78条2項)。

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