賃貸相談

月刊不動産2008年3月号掲載

連絡の取れない借家人への解除手続

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

滞納家賃が5か月にもなるため貸室に出向いたところ、電気は止められており借家人の行方も不明となっていました。解除するにはどうすればよいでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 行方不明者への解除手続

     (1) 解除の意思表示の到達

     建物賃貸借契約を解除するには、契約を解除する旨の意思表示をしなければなりませんが、意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずるものとされています(民法97条1項)。

     建物の賃借人が行方不明の場合には、契約解除の意思表示を到達させようにも、どこに意思表示をしてよいのかが分かりません。民法では、意思表示の相手方の所在を知ることができないときには「公示の方法」によって意思表示をすることができるとされています(民法98条1項)。この方法は、相手方の所在が分からないことが要件ですので、まず、相手方の住所地に通知しても所在不明で通知書が戻ってくることを証明するため、借家人の住所地に、滞納賃料を相当期間内に支払うことを催告し、相当期間内に支払がない場合には賃貸借契約を解除する旨を記載した解除通知書を配達証明付内容証明郵便で発送し、同内容証明郵便が所在不明で戻ってきてから手続を行います。

     (2) 「公示の方法」

     公示の方法は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従って、借家人の最後の住所地(当該賃貸建物の住所地)を管轄する簡易裁判所に申立てをすることによって行います。

     簡易裁判所に申し立てる際には、裁判所が本当に相手方の住所が不明であるのかどうかを審査するために、相手方の住民票又は不在籍証明書1通、契約解除の内容証明郵便が所在不明で返却されたものの写し1通と、相手方が所在不明であるか否かの賃貸人側の調査報告書1通と、公示による意思表示を行うために、相手方に対する契約解除の通知書の計3通を提出します。

     簡易裁判所が審査の結果、相手方の所在が不明であると認められたときは、簡易裁判所に提出した契約解除の通知書が裁判所の掲示場に掲示され、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載することにより行いますが、裁判所が相当と認めるときは官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示することを命ずることができます(民法98条2項)。

     公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した日に相手方に到達したものとみなされます。これで賃貸借契約解除通知が相手方に到達したものということになります。

    2. 行方不明者に対する明渡しの手続

     (1) 建物明渡請求訴訟の提起

     賃貸借契約が公示の方法により有効に解除された後は、借家人に対する建物明渡請求訴訟を提起し、判決を得て強制執行手続により賃貸建物の占有を回復することになります。訴状には建物の明渡しと未払賃料の支払を求める旨を記載します。

     訴訟手続は訴状が相手方に到達しない限り開始することができませんので、訴訟提起は公示送達の方法で行うことになります。

     (2) 公示送達手続

     公示送達とは、送達を受けるべき者(行方不明の賃借人)の住所、居所、送達すべき場所のいずれも不明な場合に行われるものであり、送達すべき書類(建物明渡等請求の訴状)を裁判所書記官が保管し、いつでも送達を受けるべき者が出頭すれば交付する旨を裁判所の掲示場に掲示することによって行われます。賃貸人は、裁判所に対して、訴状とともに公示送達を求める申立てを行い、掲示がなされてから2週間を経過することによってその効力を生じます(民事訴訟法 112条1項)。これにより訴状が相手方に到達したものとされ、いよいよ訴訟手続が開始します。

     (3) 公示送達効力発生後の口頭弁論期日

     このようにして第1回の口頭弁論手続が開かれますが、行方不明の相手方が出頭してくることはまれです。相手方が欠席すると訴状に記載した内容はすべて自白したものとみなされ、通常は2週間程度で建物明渡しと未払賃料の支払を命ずる判決が下されます。

     このように相手方が所在不明であっても、建物明渡しの手続を行うことは可能です。

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