法律・税務・賃貸Q&A

迷惑借家人への対処と賃貸人の責任

江口 正夫
海谷・江口・池田法律事務所 弁護士

質問

 アパートの入居者の方々から、1階のA氏が夜中に大音量で音楽を聴いており迷惑だとの苦情が何件もありました。賃貸人としての責任を果たすうえで、迷惑借家人(賃借人)に対してどのようにすべきなのでしょうか。

月刊不動産2017年02月号掲載
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回答

Answer

 賃借人は、契約等に定められた用法に従った使用収益をする義務を負っており、騒音の発生等、他の居住者に迷惑をかけないように貸室を使用する義務を負います。騒音の程度が、通常の生活音のレベルを超えて受忍限度を超え、改善を求めても、これに応じない場合には賃貸借契約の解除も可能となる場合があります。

賃借人の賃貸人に対する債務

 賃借人が建物賃貸借契約において負担する義務は、賃料の支払義務だけではありません。最近の建物賃貸借契約では、騒音、悪臭等の他人に迷惑を及ぼす行為を禁止する特約を定める例も多くなっています。このような特約がある場合は、賃借人の行為が、この特約に違反して債務不履行となるかを検討することになります。

 仮に、賃貸借契約に迷惑行為禁止の特約がなかったとしても、民法第616条は、「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。」とする使用貸借に関する民法第594条第1項を準用しています。また、「借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。」とする使用貸借に関する民法第597条第1項の規定も準用されます。

 その結果、賃借人は特定物(賃借建物)の引渡義務を負いますので、民法第400条により、善良な管理者としての注意をもって、その物を保管しなければならない善管注意義務を負っています。従って、賃借人は迷惑行為禁止特約がある場合は同特約違反として、特約がない場合には、建物賃貸借契約という契約の性質及び賃借人の善管注意義務から、他人に迷惑を及ぼす行為をしてはならないという債務を負っているものと考えられます。

賃借人の迷惑行為と債務不履行の成否

 賃借人の迷惑行為が騒音の発生等である場合、それが直ちに賃借人の前記の債務不履行と判断できるかについては慎重な検討を要します。なぜなら、騒音といってもその状況は多様であり、それを不快と感じるか否かについても個人差があり得るからです。

 そこで、最も問題となるのは、騒音の程度です。騒音の程度が、日常的な生活音の範囲を超えて、受忍限度を超えていると判断される場合には、賃借人の義務違反であると判断されることになります。受忍限度を超えたか否かの判断の要素として、騒音規制法による規制値を超えているか否かという点も重要な資料になります。

賃借人の迷惑行為と契約解除の可否

 賃借人の行為が債務不履行に該当する程度のものだったとしても、賃貸借契約のような継続的な契約関係を解除するには当該債務不履行が当事者間の信頼関係を破壊するに足りるものであることが必要とされています。この点からいえば、賃貸人が再三にわたって騒音の発生を止めるように注意を促し、あるいは騒音を発生させる行為の停止を求めたにもかかわらず、賃借人が賃貸人の注意や請求を無視して、その後も騒音を発生させ続けたか否かという事情は信頼関係が破壊されているかを判断するうえでの重要な要素として考慮されています。賃借人が賃貸人の注意や請求を無視して、その後も騒音を発生させ続けたというケースでは賃貸借契約の解除も可能な場合があります。

賃借人の迷惑行為と賃貸人の責任

 賃借人が他の居室の賃借人に騒音の発生等の迷惑行為を行っている場合には、それが当該賃借人の問題であることは確かですが、だからといって、賃貸人が何もしなくてもよいということにはなりません。賃貸人は賃借人に対し、賃貸建物を使用収益させる義務を負っています。この義務は賃貸建物を平穏に使用収益できる状態にして提供する義務を含んでいます。従って、一部の賃借人の迷惑行為を放置することは、賃貸人の使用収益させる義務の不履行と判断される余地もあります。賃貸人としては、問題のある行為を行った賃借人に対し、適宜、騒音の発生を止めるように注意を促し、あるいは騒音を発生させる行為の停止を求め、賃借人がこれに応じない場合は契約の解除も視野に入れて行動することが必要とされます。

賃貸借契約における賃借人・賃貸人が負担する義務

Point
  • 賃借人の債務は賃料支払義務に限られず、契約等に定められた目的物の使用収益を行う義務があります。
  • 賃借人による騒音の発生は、日常生活音を超え、受忍限度を超えたと判断される場合には違法であり債務不履行と考えられます。
  • 賃貸借契約の債務不履行を理由とする解除は、その債務の不履行が当事者間の信頼関係を破壊する程度に達していることが必要です。
  • 賃貸人の賃借人に対する再三の騒音発生停止の注意や要求を無視して騒音を発生し続けた場合には信頼関係の破壊が認められる可能性が高くなります。

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