賃貸相談
月刊不動産2005年9月号掲載
転貸承諾後の賃借人による賃料滞納
弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)
Q
当社はA社に貸室を賃貸していたのですが、A社から関連会社であるB社への転貸承諾を求められ、承諾しています。その後A社が賃料を滞納したのでA社に対して契約解除手続を取ったのですが、転借人のB社は、「自分に催告がないのはおかしい、解除は無効だ」と言っているのですが、問題はあるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 建物転貸の手続と承諾転貸の法律関係
民法では、賃借人は、賃貸人の承諾を得ない限り、建物を第三者に転貸してはならないと定め、賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく、無断で建物を第三者に転貸し、第三者に建物を使用収益させた場合には、賃貸人は契約を解除することができることも定めています。
したがって、賃借人が賃借している建物を第三者に転貸しようとする場合には、賃貸人の承諾を得ることが原則として必要とされています。(1) 承諾転貸の効果
民法では、賃借人が適法に賃借物を転貸したときは転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負うことを定めています。「適法に賃借物を転貸する」とはどういう場合であるかというと、上記のように、建物を第三者に転貸するには賃貸人の承諾を得ることが要求されていますから、賃貸人の承諾を得て転貸が行われた場合を指すものということになります。このように、民法では、賃貸人の承諾を得た上で転貸借契約が締結された場合には、賃貸人と転借人との間の法律関係は、転借人が「賃貸人に対して直接に義務を負う」とされているわけです。賃貸人は、賃借人に対して賃料の請求をすることができるわけですが、転借人に対しても、直接に転貸料の支払請求をすることができるという意味です。この場合には、転借人は、たとえ転貸人(賃借人)に対して転貸料を前払いしていた場合であっても、転貸人(賃借人)に転貸料を前払いしていることを理由に、賃貸人の請求を拒むことはできないと定められています。
(2) 承諾転貸後の賃貸人と転借人との間の法律関係
賃貸人が転借人に対して直接に権利行使ができるというと、転貸を承諾したことによって、賃貸人と転借人との間には何らかの契約関係が発生しているのではないかと思われるかもしれませんが、そういう意味ではありません。
契約関係にあるのは、あくまで賃貸人と賃借人であって、転借人と契約したのは賃借人(転貸人)です。賃貸人は、賃借人(転貸人)と転借人との間の賃貸借契約を承諾したというにすぎないものです。2. 転貸承諾後の賃借人の賃料滞納
ご質問のケースのように、賃貸人が転貸の承諾をした後、賃借人のA社が賃料支払債務の履行を怠り、賃貸人がA社に未払賃料を催告したにもかかわらず、A社が支払をしなかったために賃貸借契約を解除することがあります。転借人が存在していなければ、解除が有効であることに疑問はありません。
しかし、転借人がいる場合には、「転貸承諾がなされた場合には、賃貸人は転借人に対して直接に権利を行使できるのだから、賃借人のA社からの賃料が入ってこなくなれば、転借人であるB社に直接に請求すれば足りるはずである。そうすれば、転借人であるB社は、賃料滞納の事実を知り、B社が直接に転貸料を賃貸人に支払うことによって、本件賃貸借契約が解除されないように関与することができたはずである。にもかかわらず、賃貸人が転借人に対して何らの連絡もせず、賃貸人であるA社に対してだけ勧告して契約解除したのは不当。とクレームがつけられることがありあます。(1) 転貸承諾後の滞納賃料の請求の相手方
賃貸人が転貸を承諾した後に賃料滞納が発生した場合に、だれを相手に催告すべきかですが、最高裁の判例では、適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料滞納を理由として契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではないと判示されています(最高裁昭和37年3月20日判決)。(2) 賃貸借の債務不履行解除と転貸借の帰趨
このように、賃貸借契約が賃借人(転貸人)の債務不履行を理由とする解除により終了した場合には、賃貸人の承諾ある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する目的物を使用収益させる債務の履行不能により終了するとされており(最高裁平成9年2月25日判決)、転借人が関与することなく、賃貸借及び転貸借のいずれもが終了することとされています。