賃貸相談

月刊不動産2003年7月号掲載

賃貸Q&A・賃貸業務のトラブル事例と対応策(14)

弁護士 瀬川 徹()


Q

私が所有するマンションの1階の店舗部分と2階の住居部分を仲介業者の紹介でAに家賃月額50万円で賃貸借しました。賃貸借契約書は、一枚の契約書に賃貸物件として店舗と住居部分の表示があり、家賃は単に月額50万円、契約期間が2年と記載されているだけです。Aは、自分で住居部分に生活し、店舗部分で飲食店を経営するはずでした。その後Aは、家賃こそ約束どおり支払い続けていますが、私の承諾を得て店舗部分の飲食店の経営をBに譲り(転貸)、住居部分もCに転貸しました。しかし、Bの店舗の使い方が問題で夜中に近所の方との紛争が絶えません。家主である私への苦情も多数寄せられ閉口しています。Aに対し、再三Bへの注意をするよう要請しましたが動いてくれません。この際Aに対し、契約を解除し、店舗と住居の両方の明け渡しを求めることができないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  本件の場合、店舗部分の契約解除による明け渡しは可能かもしれませんが、住居部分まで当然に契約解除が認められるかは問題が残ります。住居部分の転借人Cに格別の問題がなければ、住居部分までの解除は認められないでしょう。

    「問題点と知識の確認」

    1. 本件契約は、一つの契約か二つの契約か?

    (1)本件契約の特徴

     本件は、貸主と借主が店舗と住宅の2個の部屋について、一枚の契約書で契約を締結しました。賃貸条件である家賃を見ると月額50万円とされているだけで、店舗と住宅のそれぞれの家賃額が定められていません。通常は、たとえ、貸主と借主が同一でも、複数の部屋が賃貸借の目的であれば、部屋ごとに契約書を作り、複数の契約として扱うことが多いと考えます。本件は、賃貸借の目的物が2つでありながら、それぞれの賃料が明記されていないため、両物件を一体化した一つの契約と考えることも可能です。

    (2)契約の数と契約解除

    ①複数契約の場合、たとえ貸主と借主が同一当事者である場合にも契約解除事由の有無は、契約ごとに検討し決められるべきものです。すなわち、それぞれの契約における債務の履行状況(賃料の支払い、賃借物の利用目的の遵守、賃貸物の保管状況等)から、賃貸借契約の基礎にある信頼関係を破壊したと認定できるか否かにより解除の有無を考えます。したがって、賃借人のある部屋の利用方法に限って善感注意義務に違反するような場合には、当該部屋に関する契約解除が認められることはありますが、他の部屋に関してまで当然に契約解除が可能となるものではありません。

    ②しかし、複数の物件を対象としながらも一つの契約である場合には、基本的には、一部屋の利用の仕方が信頼関係を破壊する程度に至って場合に契約全体の信頼関係を破壊したものと認定することができ、契約全体の解除が可能となります。

    ③本件の場合、もし、借主Aが自ら店舗と住居部分を利用していた上で、このような店舗利用に関し近隣との紛争を他発させ信頼関係を破壊したと認定できる場合には、全体の契約の解除が認められる可能性があるでしょう。
    2.第三者への転貸借の場合の判決事例

     本件は、契約書の形式から見れば、賃貸の対象物件は二つですが、契約は一つ(一本)と考えることも可能です。従って、上記考え方で行けば、一部屋の利用方法が信頼関係を破壊する場合、契約自体(全体)を解除することができ、双方の明け渡しを求めることができると考えることも可能となります。
     しかし、賃貸目的物が転貸借されている場合には、契約解除の及ぶ範囲について各部屋の利用者の利益をも考慮に入れて決する必要があるとの判断をし、一部の部屋についてのみ契約解除を認めた判決例があります(東京高等裁判所平成5年11月22日判決)。
     これは、契約は、一つで賃貸の諸条件の記載も不可分的に記載されている場合でも、対象物件が独立して転貸の対象にすることができる状況にある場合、たとえ、一つの部屋の転借人の利用方法が信頼関係を破壊する程で契約解除が許されるとしても、その累を全くそれと関係のない他の部屋の転借人にまで及ぼすことは相当でないとの考え方です。
     この判例に準じて本件を考えれば、本件は、結果的にも店舗も住居部分も別々の転借人がおり、片方の転借人の信頼関係を破壊する行為による契約解除の効果は、全くそれと無関係な他の転借人に及ばないとの結論になるでしょう。つまり、店舗部分の解除しか認めず、住居部分の明け渡しは認めない可能性があります。
     また、仮に片方の部屋だけの解除が認められた場合には残りの部屋の家賃等の確定は、本件建物のほかの部屋の条件を参照し、位置関係や面積等により合理的に定めることができるとも判断しています。
     転借人が存在する場合には、前述のような考え方だけでは合理性がない場合があることになるのでしょう。

    「実務上の留意事項」

    1.同一当事者に関し複数の物件を同時に賃貸借する場合には、本件のような複数契約なのか、一つの契約なのか、更には、物件ごとに部分解除が認められるのか否かが問題となります。したがって、当事者間でどのように扱うのかを明確にし、かつ、契約書にもそのことが明らかとなるような個別条件を明示する配慮が必要でしょう。

    2.全体として賃料を定めた場合にも、部分解除が想定される場合には、あらかじめ部屋ごとの賃料内訳を明記するとかの工夫が必要です。また、転貸を認める際は、部分解除を予期する必要が生じます。

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