賃貸相談

月刊不動産2002年8月号掲載

賃貸Q&A・賃貸業務のトラブル事例と対応策(3)

弁護士 瀬川 徹()


Q

アパートの賃貸借を行う際に、貸借人の友人が連帯保証人となりました。賃貸借契約は、その後更新し、更新後の賃貸借契約書を作成しましたが、連帯保証人には、改めて署名捺印はもらいませんでした。しかし、その後賃借人が失業し、賃料を1年分滞納しています。賃貸人は、契約を解除し賃借人に明け渡しを求め、連帯保証人に対しても滞納賃料などを請求できるでしょうか?

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  賃料不払いが、1年分と長期に亘っていますので、賃貸人は、賃借人に対し不払い賃料の支払催告をし、催告期間内に支払わない場合、契約を解除し、明け渡しを求め、滞納賃料及び契約解除後明け渡しまでの間の賃料相当損害金などの請求を行うことができます。また、連帯保証人の責任を最初の契約期間内に限定するなどの特段の事情がない限り、連帯保証人に対しても、滞納賃料及び契約解除後明け渡しまでの間の賃料相当損害金などの請求を行うことができます。

    「問題点と知識の確認」

    1.賃料滞納状況の賃貸借のかかえる問題点

     賃貸借契約で賃料が滞納されると貸主にとり2重苦となります。賃貸目的物からの賃料収益があがらない(それでいて未収賃料債権に課税がされる)。新たに実質的な収益を得るためには、明け渡しを求めなければなりません。これらを解決する最後の手段が裁判かもしれません。

    2.賃料不払いと契約解除

     賃料不払いは、貸借人の債務不履行ですから、原則として、貸借人は、契約を解除できます(民法541条)。但し、裁判実務では、賃貸借の契約解除が認められるには、単に形式的に契約違反があるだけでなく、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するような背信的な違反行為が必要です。そのため、賃料不払いが1~2回あっても、その後、支払いがされ、かつ、その後の資力に疑問がない場合や権利金、保証金、敷金などの授受の状況を総合的に見て、契約解除までは認めない場合があり得ます。よく、「何回不払いが生じたら解除が認められるのか?」との質問を受けますが、上記の判断次第ですので一概に言えません。ただ、賃貸人の立場では、賃料が滞納した以上、速やかに滞納賃料の支払催告と不払いの際の契約解除を行うべきです(なお、支払い催告と不払いを停止条件とする契約解除の意志表示は、同一書面で可能です)。なぜなら、賃借人が解除を拒否したい(契約を継続したい)と考えれば、滞納賃料を支払うから、その回収に役立ちます(但し、明け渡しは困難となる)。一方、賃借人が、解除後もなお支払わなければ、それは、信頼関係の破壊を認定しやすく、解除が認められる可能性が高くなり、明け渡しが可能となります。なお、後者の場合、賃借人に支払能力がないため、結局、滞納賃料や解除後の使用相当損害金の回収は事実上困難です。ですから、訴訟活動などを早期にとることが、結果として、明渡しを早期に実現し、延滞賃料などの損害の拡大を最小限に留め、新たな賃借人から賃料を回収することができます。

    3.連帯保証人の責任

    ①賃借人の連帯保証人の責任は、賃借人が契約に従い負担する一切の債務について、賃借人と同等の立場で責任を負います。賃借人の負担する賃料、違約金(損害金)損害賠償(使用相当損害金)などの支払責任があります。但し、建物明渡し義務そのものについては、賃借人の一身専属的な債務として否定する判決例があります(大阪地裁昭和51・3・12判決)。

    ②賃借人の連帯保証人の責任の期間は、基本的には、連帯保証の際決めた期間です。しかし、通常の賃貸借では、賃借人の連帯保証人の責任期間を個別に限定することは少なく賃貸借契約期間中の賃借人の債務一切を保証します。従って、契約期間中及び解除後明渡し完了までの一切の責任です。

    ③では、本件のように、更新後の賃貸借契約書に連帯保証人が署名していない場合にも責任は継続するのでしょうか?この点は、判例は、最初に連帯保証する際に更新後の賃貸借については保証する意思が無いことをうかがわせる特段の事情がない限り、更新後も責任を負担する趣旨で保証されたものと考えるのが相当である。そして、賃借人から連帯保証人に対する保証債務の履行を請求することが信義則に反していると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務について保証責任を免れないとしました(最高裁判例平成9・11・13)。これは、賃貸借契約が約定更新や法定更新により継続されることが一般的であり、従って、連帯保証人もそうした状況を是認しながら保証するのが通常の意思との考え方と思われます。

    ④なお、更新後も連帯保証責任があるとしても、賃借人が継続的に賃料の支払をおこたっているにもかかわらず、賃貸人が保証人にそのことを連絡することもなく、いたずらに契約を更新させてきた場合には保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることも考えられます(前掲判例)。本件でもこうした面の検討も必要でしょう。

    「予防と検討」

    1.賃料の延滞は、賃貸人及び賃貸管理者にとっては深刻な悩みのひとつです。契約段階で賃借人の賃料支払い能力の調査をしますが、基本的には信頼するしかありません。入居の事情などを聞き取りながら、経験的に判断することになるでしょう。

    2.その不安を解消するのが本来は、連帯保証人の存在です。連帯保証人の保証意思の確認はもちろん、責任の範囲についても明確にしてください。更に、契約後の保証人の住所の移動も把握し、賃借人に賃料不払いが生じた場合には、速やかに保証人に連絡をとり、滞納額が拡大する前に問題の解決を図ってください。通常、裁判により明渡しを求め判決を得、判決に基づき強制執行をすると短く見ても、4~5ヶ月、相手の対応如何では更に長期化します。その間の使用相当損害金も拡大しますが、現実の回収は困難な場合が多く、滞納賃料と合わせると損害額は相当額になります。信義則違反で保証人の責任が限定されないためにも、この損害の拡大を防止することが必要です。

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