賃貸管理ビジネス
月刊不動産2022年9月号掲載
賃貸管理業からの信頼関係構築で生産性を高めよ「顧客継続ファネル」①
今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)
Q
長い間賃貸管理業を営んでいます。管理戸数は増えたり減ったりしながらほぼ横ばいです。長年お付き合いのあるオーナーさんとは、よい関係でお仕事をさせていただいているのですが、当社のスタッフのスキルに問題があるのか、既存のオーナーさんから新たにお仕事の話をいただく機会がほぼありません。このところ、賃貸仲介のお客様の来店数が減っており、それに応じて売上げも減少しています。継続的に収益を安定化させるには、どのような手段がよいとお考えでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
仲介事業が不安定になっている場合、管理事業を拡大してストックビジネスにシフトしていくことをお勧めします。ここでは、2つのステップで物事を考えなくてはなりません。1つ目は、新規顧客との接点を増やし、管理物件を増やすこと。2つ目は、既存顧客との関係強化をして、既存顧客からの紹介や派生ビジネスへと展開し、生産性を高めていく方法があります。
※今回のテーマは2回に分けてお伝えします。第1回目は「新規顧客との接点を増やし、管理物件を増やす」についてご説明します。 -
はじめに
すぐにでも管理戸数を倍増させたいという相談が、ここ数年で加速しているように感じます。一気に増やしたいというのであれば、M&Aや他社から事業譲渡で管理物件を引き受ける方法がありますが、体力がある会社でなければ、なかなか難しいところで
はあります。管理戸数を増やすのは、たいへん時間がかかるものです。 -
管理受託の顧客経路
管理戸数を増やす経路として、大きく分けて2つのパターンがあります。
①取引のない新規顧客から受託すること。
②既存のオーナーから物件を追加で受託。また知り合いのオーナーをご紹介いただく。管理会社としては、すでにストックしている既存オーナーとの信頼関係を厚いものにして、顧客関係をしっかりと管理していくことが理想です。しかし管理戸数が少ないとオーナーの数も少ないため、なかなかすぐに紹介などしてもらえることもありません。
よって、新規顧客の集客を図りつつ、少しずつ関係を築いていくことが重要なのです。
そうは言っても、いきなり営業をして管理をとれるほど、受託はたやすいものではありません。セオリーに基づいた顧客関係作りをしながら、小さな取引ができるところまで信頼関係を作り上げなければなりません。そのためには、ガンガン営業をかけるのではなく、「顧客の困っている課題」に寄り添いながら、一緒に解決していく方法がお勧めです。 -
2つの集客とそれぞれの目的
人との接点を作らなければ、営業はできませんから、まずは「集客」が重要です。集客といっても2種類あり、集客A(興味を持っている人を集めて、関心を深めるための広告や活動)と、集客B(自社と取引する人を増やすための広告や活動)に分かれます。一見同じに見えますが、目的が違えば、広告の方法も変わります。いずれにしても接点の母数を増やす必要があるので、まずは「集客A」を継続しながら、少しずつ自社を信頼してもらうための「集客B」に発展させていきます。
集客Bでは、自社が顧客に対して無償で課題解決の方法を伝えていきます。特にセミナーなどは、顧客のために自社がどんなことを提供できるのかを伝えるチャンスです。たとえば、空室で困っているオーナーがいらっしゃるのであれば、リノベーションの事例や成功事例を見ていただくこともよいでしょう。ただ、ここで大きなポイントは、リノベーションというコストがかかる再投資を誰もができるわけではないことです。お金がかかる対策と、お金がかからない対策があるのであれば、まずはお金がかからない対策から提案することで、信頼度はグッと増すでしょう(図1)。 -
集客用商品を作り小さなハードルを越えてもらう
ここまできても、まだ管理委託のお話にこぎ着けるには時間がかかることがあります。そうなると、次へのステップまでさらに時間を要することがあるため、越えやすいステップを作るようにします。それは「集客用商品」です。できるだけ安い商品群を作り、少額でもよいので「取引をした」という事実を作ることで、ある意味、信頼関係を強制的に作り出します。一度でも取引をし、そこで小さな満足を感じてもらうことができさえすれば、次へのリピートへとつながります。このループを利用しながら、少しずつ距離を縮めて、基幹収益商品である「管理受託」へ向かっていきます(図2)。
一般的に、賃貸不動産のように高額な資産の場合、お金の管理から入居者の管理までを委託することになるため、ゼロから任せるにしても、他社から別の会社に移管するにしても、オーナーはかなりのパワーを要します。わざわざリスクを抱えてまで、見知らぬ他社に管理を任せたいというのは、よほどの理由がない限りありません。そのハードルを越えてもらうためには、少しずつ小さなステップを越えてもらいながら、信頼関係を作り上げていくことが最短のゴールなのです。