税務相談

月刊不動産2011年3月号掲載

賃貸建物と建物附属設備の取得価額の区分方法

情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)


Q

個人が賃貸建物を購入した場合の建物と建物附属設備の取得価額の区分方法について教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃貸建物の減価償却

    (1)減価償却の方法

     個人が賃貸建物を購入した場合は、不動産所得の金額の計算上、建物と建物附属設備の減価償却費を計上する必要があります。平成10年4月1日以後に取得した建物の減価償却の計算方法は、定額法のみに限定されています。これに対して建物附属設備は、定額法又は定率法のうち、あらかじめ税務署に届け出ている方法により計算します。

    (2)減価償却費の計算における取得価額の区分

     建物と建物附属設備に関する減価償却の計算方法と耐用年数は、税法上、区分して規定されています。このため、減価償却費の計算にあたっては、建物と建物附属設備の取得価額を原則として区分する必要があります。

     建物全体の工事が一括請負の工事で、建物と建物附属設備の建築費用が一本になっているような場合であっても、工事見積書、明細書等によって区分し、建物と建物附属設備の耐用年数を適用して減価償却費の計算を行います。

    2.建物と建物附属設備の取得価額の区分

     建物と建物附属設備の取得価額の区分は、実務上問題となるものの、具体的な区分方法について税法や通達においては明確な基準が設けられていません。そこで本稿では、実務の参考になるように国税不服審判所が平成12年12月28日の裁決で示した区分方法を紹介します。

    (1)契約書で明らかな場合

     建物及び建物附属設備の購入代価等が売買契約書等で区分されている場合は、その区分によります。

    (2)契約書で分からない場合

     購入代価等が売買契約書等で区分されていない場合は、建物と附属設備の取得価額を合理的な方法により区分する必要があります。

     平成12年12月28日の裁決事例では、請求人(納税者)が中古マンションを1,150万円で一括購入したものの、売買契約書に土地及び建物の価額の記載がなく、この事例において審判所は、次の区分方法が合理的と判断しています。

     まず、土地と建物(本体及び附属設備)の取得価額は、固定資産評価額で按分します。その結果、土地は485万700円、建物は664万9,300円と区分しています。

     次に、建物の取得価額664万9,300円を建築工事に係る資料に基づき計算される工事費の割合(建物69.6%・附属設備30.4%)により、建物と建物附属設備の取得価額を区分します。ただし、工事費の割合は新築時のものですから、新築時から買主の取得時までの減価を考慮し、次のとおり工事費の割合を補正した上で、建物と建物附属設備の取得価額を区分しています。

     ①未償却残高の割合は、建物93.75%、附属設備79.78%。この場合における未償却残高の割合とは、定額法による 減価償却計算に基づき「1-1×0.9×償却率×(経過月数÷12)」の算式で計算したものであり、算式中の「経過月数」とは、新築時から取得時までの経過月数をいいます。

     なお、この裁決事例におけるマンションは、平成2年に建設され平成6年に納税者が取得した物件であり、耐用年数と償却率は、平成6年時点のものを使用しています。したがって、この裁決事例における建物の償却率(定額法)は耐用年数60年に対応する0.017、附属設備の償却率 (定額法)は、耐用年数18年に対応する0.055です。

     ②建物の工事費の割合を補正すると69.6%×93.75%= 65.25%、附属設備の工事費の割合を補正すると30.4%× 79.78%=24.25%となります。

     ③補正後の建物の工事費割合が65.25%、附属設備の工事費割合が24.25%であることから、建物の工事費割合と附属設備の工事費割合の構成比を計算すると、建物は

      65.25%÷(65.25%+24.25%)=72.91%、

      附属設備は

      24.25%÷( 65.25%+24.25%)=27.09%

      となります。

     ④建物の全体の取得価額6,649,300円を、③で求めた建物構成比の72.91%を掛けて計算すると、建物の取得価額は4,848,005円、附属設備構成比の27.09%を掛けて計算すると、附属設備の取得価額は1,801,295円となります。

    3.工事費割合が算出できない場合

     上記2.(2)による区分方法は、工事費割合が算出できることを前提としたものです。
     工事費割合が算出できない場合には、国税不服審判所の平成13年2月19日の裁決要旨より、固定資産税評価額の再建築費評点数表による構造別の再建築費評点数の割合により区分することが合理的な区分方法となります。

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