賃貸相談

月刊不動産2007年9月号掲載

賃貸借契約の解約申入れとその後の使用継続

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

建物の著しい老朽化と、周囲の土地の高度利用等の事情から賃貸借契約を解約する旨を申し入れましたが、解約予告期間を経過した後もテナントが居座っている場合、どのように対応すべきでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.期間を定めた建物賃貸借契約と解約申入れ

     建物の賃貸借契約を締結するときには、賃貸期間を定めているのが通常です。賃貸期間は2年~3年とするものが一般的ですが、民法では契約期間内はオーナー側もテナント側も解約の申入れができないことを原則としています。期間を定めて賃貸借契約を締結した以上、契約は守らなければなりませんから、少なくともその期間内は賃貸借を継続するのが原則だというわけです。

    (1) 賃貸借契約における期間内解約権

     しかし、契約期間中は絶対に賃貸借契約を解約できないというのも窮屈な話です。民法では、賃貸期間を定めていても、期間内に解約できる旨を合意していた場合には解約をすることができるものと定めています(民法618条)。建物の賃貸借では、解約の申入れの日から3か月を経過すると賃貸借は終了すると定められています(民法617条)。

    (2) 期間内解約権のオーナーに対する制約

     民法上は、契約で定めていればオーナー側もテナント側も平等に期間内解約ができることになっていますが、借地借家法では、オーナー側が賃貸借契約を契約期間内に解約しようとするときは、2つの制約が付けられることになっています。

     1つは、オーナー側に限り、解約の申入れをするには正当事由が必要とされていることです(借地借家法28条)。もう1つは、オーナー側が解約を申し入れた場合に限り、賃貸借契約は解約申入れの日から6か月を経過することによって終了するとされていることです(借地借家法27条)。テナント側からの解約申入れの場合には、この適用はありませんから、テナントからの解約の場合は民法の定めのとおり、解約申入れから3か月を経過すると賃貸借契約は終了することになります。

     ご質問のケースでは、著しい老朽化と付近の高度利用の必要性等の事情から解約申入れをしたとのことですが、それらの事情が正当事由を満たしているとすると、賃貸借契約はオーナー側の解約申入れから6か月を経過することにより終了したものと解されます。

    2.解約予告期間経過後のテナントの使用継続

     オーナー側の解約申入れが正当事由を具備しているとすれば、賃貸借契約は既に終了していますから、その後のテンナトによる建物の使用継続は占有権原を有しないにもかかわらず建物を使用していることになり、建物の不法占拠ということになるはずです。

    (1) 訴訟提起までは放置してもよいのか?

     そこで、最終的には建物明渡請求訴訟を提起することになります。その際に問題となるのは、いずれは訴訟を提起するつもりだが、すぐには訴訟を提起する意思はないという場合に、それまで何もせずに放置しておいてもよいのかということです。

     実は、将来的には訴訟を起こすつもりだからと言って、テナントによる使用継続を長期間放置してもよいというわけではありません。もしオーナー側が、既に賃貸借契約は解約により終了したのだからと安心して、そのまま放置すると、賃貸借契約は借地借家法の法定更新の規定により更新したものとみなされてしまうのです。

    (2) テナントの使用継続と法定更新

     借地借家法27条は、オーナー側に正当事由が具備されていれば賃貸借契約の解約を認めるのですが、その際に賃貸借契約が期間満了によって終了した場合と同様に扱うと定めています(借地借家法27条2項)。賃貸借契約が期間満了によって終了した場合の措置とは、期間満了により賃貸借契約が終了した後に賃借人が賃借建物の使用を継続するときに、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合は、賃貸借は従前の契約と同一の条件で更新したものとみなすとされていることをいいます。

     したがって、解約申入れにより契約が終了した場合でも、賃借人が使用を継続するときは、直ちに訴訟を提起する場合は別ですが、いずれ訴訟を提起すればよいと考えて放置すると明渡しを求めることができなくなりますので注意する必要があります。

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