法律相談
月刊不動産2024年6月号掲載
賃貸仲介と元付業者の報酬
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
賃貸マンションのオーナーから仲介を依頼され、客付け業者A社と協力して、賃貸借契約を成約させました。仲介報酬は、当社がオーナーから賃料1.1カ月分を、A社が賃借人から賃料1.1カ月分を取得するということで、それぞれ了解をもらっています。当社とA社がそれぞれオーナーと賃借人から賃料1.1カ月分ずつ受領することは、宅建業法上適法でしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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宅建業法違反です。ひとつの取引に複数の宅建業者が介在する場合には、宅建業者の取得する報酬の合計は、宅建業法で決められた範囲内でなければなりません。ご質問内容の報酬の授受ですと、貴社とA社の受領する報酬合計は賃料の2.2カ月分となりますから、宅建業法に反します。
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報酬額の上限
さて、宅地建物取引業法(以下、宅建業法)には、宅建業者が宅地または建物の売買、交換または貸借の代理または媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる、とされています(宅建業法46条1項)。これを受け、告示によって「宅地建物取引業者が宅地または建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年建設省告示第1552号)が定められ(同法同条3項。報酬規程)、宅建業者の報酬の上限額が明記されています。宅地または建物の賃貸の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計額は、その宅地または建物の借賃(消費税等相当額を含まない)の1月分の1.1倍に相当する金額以内です。複数の宅建業者が介在する場合には、宅地または建物の貸借の媒介に関して受けることのできる報酬は、その合計額がこの上限の範囲でなければなりません(岡本・宇仁 著『三訂版宅地建物取引業法』大成出版社816頁)。
また、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、媒介の依頼を受けるに当たって依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1月分の0.55倍に相当する金額以内です(同告示第1552号(報酬規程)第4)。 宅建業者は、定められた額を超えて報酬を受けてはなりません(宅建業法46条2項)。 -
裁判例
東京地判令和4.6.22-2022WLJPCA06228010は、eマンション201号室の賃貸人X、賃借人Aの賃貸借契約(月額賃料120,000円)が、賃貸人側の仲介業者Y、賃借人側の仲介業者Dとして成立したケースです。YがXから「新規契約広告宣伝費」の名目の金銭120,000円を、DはAから仲介手数料129,600円を受領していました。
Xが、Yに対して訴えを提起し、Yに支払った「新規契約広告宣伝費」は、宅建業法の報酬規程に違反する不当利得であるとして、返還を求めました。判決では、『平成30年9月当時、宅地建物取引業者が建物の貸借の媒介に関して依頼者の双方から受けることのできる報酬の額の合計は、当該建物の借賃の1月分の1.08倍に相当する金額以内とするものとされ、宅地建物取引業者は、これを超えて報酬を受けてはならないとされていたこと( 宅建業法4 6条、平成29年12月8日国土交通省告示第1155号)からすれば、YおよびDは、eマンション201号室の賃貸借契約の媒介に関し、合計して129,600円を超える報酬を受領することはできない。少なくとも、120,000円から、129,600円の2分の1である6 4 , 8 0 0 円を控除した55,200円について、法律上の原因なく利得して原告会社に損失を及ぼしたと認められる』として、YはXに対して、55,200円の返還義務があると判断されました(図表)。 -
まとめ
現在、賃貸仲介業務においては、客付けの宅建業者が賃借人から賃料1カ月分の仲介報酬を受領し、仲介業社は賃貸人から月額賃料の1カ月分相当額を広告料(AD)として受領するという取引が、非常に多く行われているようです。しかし、特に高額の費用を要する広告を行うなどの場合でなければ、報酬規程の範囲外で広告料を受領することは、宅建業法違反です。宅建業法に違反する行為を行えば、免許を剥奪されることもあることを十分に留意し、法に則って日常業務を行っていただきたいと考えます。