賃貸相談

月刊不動産2006年3月号掲載

賃貸人による賃貸住宅の管理細則の制定

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

当社が経営する賃貸マンションの生活ルールを定めた管理細則を制定したところ、入居者から家主が一方的に決めた細則に従う義務はないとクレームがつきました。管理細則について入居者の同意が必要なのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1. 賃貸借契約における管理細則

     賃貸マンションや賃貸アパートなどの共同住宅においては、建物全体の居住環境を維持することが必要となりますし、入口や廊下、ゴミ置き場の管理方法等、住人が共同生活を送っていく上で必要な最低限のルールを定める必要があります。このような場合に定められているのが管理細則といわれるものです。

     管理細則の定め方にはいくつかのものがあります。

    (1) あらかじめ管理細則の内容を提示する型
     建物賃貸借契約を締結する際、あらかじめ賃貸人が建物の管理細則を定めておき、その内容を賃借人に示した上で、その管理細則を遵守する旨を賃借人が賃貸借契約の中で合意するというものです。この類型の場合は、賃借人はあらかじめその内容を確認した上で、管理細則を守ることを約束しているのですから、この場合には管理細則が賃借人に対しても拘束力を有することは当然と考えられます。

    (2) あらかじめ内容を提示することなく管理細則の制定を合意する型
     実際の建物賃貸借契約の中には、賃貸借契約締結時には管理細則を定めておらず、将来、賃貸人が管理細則を定めることができることと、管理細則が定められたときは賃借人はこれを遵守することを合意する形式を取るものがあります。
     この場合には、一応、賃貸人が管理細則を定めることには賃借人は同意し、管理細則を遵守することにも同意しているのですが、賃借人自身は契約締結当時は管理細則の中身を知らないため、例えば賃借人が負担する電気水道料金の配分計算方法を後日の管理細則で定めた場合に、賃借人からそのような一方的な定めには従えないというクレームがつけられることがあります。

    (3) 賃貸借契約には賃貸人の管理細則の制定について何も定められていない型
     建物賃貸借契約の中には、賃貸人が管理細則を定めることができることについては何らの定めがないにもかかわらず、後日、賃貸人が管理細則を定め、これを遵守するよう賃借人に求めるというタイプのものもあります。この場合には、賃借人は賃貸人の管理細則制定については何ら同意していないことを理由に、管理細則の遵守を拒否するというケースも出てきます。

    2. 賃貸人による管理細則制定の法的根拠

     建物賃貸借において、賃貸人が管理細則を制定することの根拠は、以下の2つのものが考えられます。

    (1) 契約に基づく管理細則制定権
     一般に、賃借人が賃貸人の定めた管理細則に従わなければならない根拠としては、管理細則に従うことを賃借人自身が賃貸借契約の中で合意しているということがあげられます。
     その意味では、あらかじめ管理細則の内容を提示した上でその管理細則の遵守を賃貸借契約で合意しているタイプが賃借人に対して拘束力を有することは契約理論からして当然ということになります。
     これに対し、あらかじめ内容を提示することなく賃貸人が管理細則の制定することができる旨を合意し、賃借人がこれを遵守する旨を契約で定めているタイプの場合には、管理細則といわれる範疇の範囲内であるかぎりは賃貸人は管理細則を定めることができますし、賃借人は、その範囲で管理細則に従う義務があることになります。
     しかし、この場合には、賃貸人が実際に定めた管理細則の項目のうち、何が管理細則の範疇の範囲内であるか否かについての紛争を招きやすいということになるでしょう。

    (2) 建物所有権に基づく管理権を根拠とする管理細則制定権
     以上に対し、賃貸人が管理細則を制定できることを賃貸借契約で合意していない場合は、契約を根拠とする管理細則制定権は認められません。しかし、この場合には賃貸人は一切管理細則を定めることができないのかといえば、そうではありません。賃貸人は建物所有権に基づく、建物の管理権によって、建物管理に必要な範囲で管理細則を制定する権利があると考えられます。

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