法律・税務・賃貸Q&A

賃貸マンションの購入と敷金の承継

山崎 信義
税理士法人タクトコンサルティング 情報企画室室長 税理士

質問

 このたび、収益物件として賃貸マンションを購入しようと思います。その場合、賃借人が前所有者に預託した敷金も引き継ぐと聞いたのですが、賃借人が預託した敷金全額の返還義務を引き継ぐのでしょうか。

月刊不動産2017年05月号掲載
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回答

Answer

 賃貸物件のオーナーチェンジの場合には、新所有者は前所有者から実際に敷金を引き継いだか否かに関係なく、敷金返還債務を承継します。ただし、新所有者が承継する敷金の額は、当初預託された敷金の額から賃借人が前所有者に対して負担していた未払賃料等の債務を控除した残額となります。

1.賃貸物件の所有権移転と賃借権

 建物所有者である賃貸人が、賃借人に賃貸中の賃貸建物を第三者に譲渡すると、建物の所有権は前所有者から新所有者に移転します。譲渡が行われたのは建物だけで、前所有者と新所有者との間で賃貸人の地位の譲渡契約は締結されなかったとすると、賃貸借契約はどのように扱われるのかが問題となります。既にテナントが入居している賃貸建物を第三者に譲渡した場合には、各テナントと賃貸借契約を締結したのは譲渡人である前所有者であって、建物の譲受人である新所有者はテナントとの間には賃貸借契約を締結した事実がないため、その賃貸借契約がどのように処理されるかという問題を生じます。新所有者は、建物の所有権は譲渡を受けたが、賃貸人の地位まで譲り受けたわけではないと主張できるかということが問題となるわけです。

 この問題については、賃借権の対抗力の問題と考えられています。賃借人が建物賃借権の登記をしていれば新所有者に対して自己の賃借権を対抗できますので、その場合は、新所有者は前所有者である賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約を引き継ぐこととなります。

 しかし、賃借権には登記請求権が認められていないため、賃借人が賃借権の登記をすることは容易ではありません。このため、借地借家法では、「建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあった時は、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる」(借地借家法31条)と定めています。したがって、賃借権の登記がなされていない場合でも、賃貸建物の所有権が譲渡される前に、賃借人に当該建物が引き渡されている場合には、前所有者である賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約は建物の新所有者に対抗でき、新所有者は賃貸人たる地位を承継することとなります。

2.賃貸人の地位の承継と敷金返還債務の承継

 それでは、建物の新所有者は、前所有者が賃借人から預託を受けていた敷金の返還請求権まで承継するのでしょうか。この点について、敷金は賃貸借契約に基づく賃借人の賃貸人に対する債務(未払賃料や原状回復義務等)の担保として預託されたものであるため、賃貸借契約上の地位の移転に伴い、敷金に基づく法律関係も新たな賃貸人に承継されると考えられています。

 判例では、対抗要件( 賃借人が引渡しを受けていること)を具備した建物賃貸借については、「賃借建物の所有権取得者は、取得と同時に当然賃貸借を承継するものであって、承継の通知を要しない」(最判昭和33年9月18日) とされ、賃貸建物の購入者は当然に賃貸借契約を承継するものとされています。このため、実務においては、賃借人に賃貸中の建物を第三者に譲渡する場合には、譲受人は賃貸借契約における賃貸人の地位を承継し、敷金返還債務も承継するため、前所有者が賃借人から預託を受けた敷金を、前所有者から新所有者に交付することが行われており、実際には、建物売買代金の決済の際に、建物売買代金額から、譲受人に承継される敷金の額を差し引いた額が新所有者から前所有者に支払われています。例えば、賃貸建物の売買代金額が2億円、他方、前所有者が賃借人から預託を受けた敷金の総額が1,500万円であるとすると、売買代金の決済時には2億円から1,500万円を控除した1億8,500万円が支払われることになります。

 問題となるのは、前所有者が新所有者に対し、賃借人から預託を受けた敷金を交付しなかった場合です。この場合には例外的に、新所有者は敷金返還債務を承継しないのかというと、そうではありません。前所有者からの敷金の交付の有無にかかわらず、新所有者は賃貸人の地位を承継した以上、敷金返還債務も承継すると解されています(最判昭和39年6月19日)。

3.新賃貸人が承継する敷金の額

 それでは、賃貸人の地位を承継した建物の新所有者は、前所有者が賃借人から預託を受けた敷金の全額を承継するのでしょうか。この点について、判例は、賃貸人の地位が移転する時点で、前賃貸人に預託していた敷金の額から、賃借人が前賃貸人に対して負担していた未払賃料債務等が控除され、新賃貸人は、当初の敷金額から前賃貸人に対する未払賃料債務等を控除した残額の返還債務のみを承継するものと解しています(最判昭和44年7月17日)。

 

 

Point
  • 賃貸建物が譲渡された場合は、賃貸借契約上の地位の移転が行われていない場合であっても、賃借人が引渡しを受けている場合には、賃貸人の地位は建物の新所有者に承継される。
  • 賃貸人の地位が承継される場合には、賃貸借契約に伴い前賃貸人に預託されていた敷金の返還債務も新賃貸人に承継される。
  • 賃貸人の地位の承継の場合には、前賃貸人から新賃貸人に対し、引き継がれる敷金額が交付されるのが通常であるが、現実には敷金額が交付されなかったとしても新賃貸人は敷金返還債務を引き継ぐことになる。
  • 新賃貸人が承継する敷金返還債務の額は、当初預託された敷金の額から、地位承継時までに賃借人が前賃貸人に対して負担していた未払賃料債務等の額を控除した残額に限定される。

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