賃貸相談

月刊不動産2004年12月号掲載

賃借人の破産と賃貸借契約の解除の可否

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

昨今の不況から、賃借人の経済事情が悪化し、自己破産宣告を受ける賃借人が出てきましたが、賃借人が破産した場合には、賃貸人は賃貸借契約を解約できるのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.賃借人の破産宣告と賃貸借契約

    (1)民法第621条による解約申入れ

     現行民法621条は、賃借人が破産宣告を受けた場合には、たとえ賃貸借契約期間が定めてあってその期間がいまだ終了していないとき(例えば、2年契約の賃貸契約期間の途中)でも、賃貸人あるいは賃借人の破産管財人は民法第617条の規定によって賃貸借契約を解約することができると定めています。また、この場合には、各当事者は解約によって損害の賠償を請求することができない旨を定めています。
     この規定にある、「民法第617条の規定によって賃貸借契約を解約する」ということは、建物賃貸借の場合には解約申入後3ヶ月の期間が経過した後に賃貸借契約が終了するということですが、この規定は借地借家法によって、賃貸人側からの解約の場合には、3ヶ月の期間は6ヶ月に延長されていますから注意が必要です。

    (2)民法第621条の解約申入れと借地借家法の正当事由制度との関係

     ところで、民法では、賃借人が破産宣告を受けた場合には、その事実自体をもって賃貸借契約を解約できると定めているのですが、他方で借地借家法では賃貸人が賃貸借契約を解約する場合には正当事由が必要であると定めています。
     それでは、賃借人が破産宣告を受けた場合に、賃貸人側が賃貸借契約を解約しようとする場合、借地借家法に定める正当事由を具備する必要はないのでしょうか。
     判例では、正当事由の要否は借地の場合と借家の場合とでは異なるものとされています。

    ①借地の場合の正当事由の要否

     最高裁の判例では、借地権者が破産宣告を受けた場合であっても、借地上に借地人の所有する建物が存在する場合は、民法621条により賃貸人がした借地契約を解約する申入れが効力を生じるためには、借地法第4条1項但書、同法第6条2項に定める正当事由が存することが必要であるとしています(最高裁昭和48年10月30日判決)。
     したがって、借地の場合には、賃借人が破産宣告を受けた場合であっても、賃貸人が借地契約を解約するには正当事由を具備する必要があるとされています。

    ②借家の場合の正当事由の要否

     これに対し、建物賃貸借の場合に賃借人が破産宣告を受けた場合については、東京高裁は、借地と借家とでは、賃借人の投下資本の額及び賃借権の財産的価値の点で相当程度の差があり、しかも、存続期間や譲渡可能性に関する法的規制にも顕著な差があるから、借地についての判例(前記①の最高裁判決等)は借家についての先例とはならないと判示し、借家法の適用のある建物賃貸借契約の賃借人が破産宣告を受けた場合において、賃貸人が民法第621条に基づいて解約の申入れをするときは借家法(旧)第1条ノ2の正当事由を具備する必要はないとされています。
     もっとも、破産宣告後に賃貸借契約を継続しているにもかかわらず、賃借人(破産管財人)が賃料を不払にすれば、賃貸人は賃料債務不履行を理由に契約の解除ができるわけですが、民法第621条によれば、賃貸人は、賃借人に賃料不払がなくとも賃借人が破産宣告を受けたという事実をもって解約ができるということになるわけです。

    2.破産法改正に伴う民法第621条の削除

     上記の処理が現行民法に基づく法的規制の内容なのですが、この度破産法が改正され、これに伴い、民法や民事再生法・会社更生法等の一部が改正されています。重要なのは、新法のもとでは、上記の民法第621条が削除されたということです。この改正は来年1月からの施行ですので注意が必要です。
     今後は、賃借人に破産手続が開始した場合に、賃貸人側から解約申入れができるという条文がなくなってしまいます。したがって、新法施行後は、賃借人が賃料を支払っている限りは、賃借人に破産手続きが開始したということ自体を理由としての賃貸借契約の解約申入れはできないことになります。

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