賃貸相談

月刊不動産2012年5月号掲載

貸室の面積と賃料額の精算

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

貸室の床面積を30坪とし、これに坪単価を乗じて賃料額を合意したのですが、後日に実測したところ28.5坪しかありませんでした。賃借人は面積割合での賃料減額を要求していますが、その必要はありますか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1 建物賃貸借における賃貸面積の食い違い

     貸室を賃貸するに当たり、例えば当該貸室が30坪あるものとして、これに坪当たりの単価を乗じて賃料額を決定した場合に、実測の結果、床面積が契約時に表示された面積よりも僅少であるときは、賃借人の側からは賃料額の算定の根拠となった床面積が30分の28.5しかなかったのだから、賃料額も30分の28.5に減額されるべきであるとの主張がなされることは往々にしてあり得るところです。

     このように、契約締結当時に一定の面積や数量が存することを表示して取引がなされた場合に、実際には表示された面積や数量がなかった場合の処理については、民法では売買契約に関して、いわゆる数量指示売買をした場合の担保責任の問題として規定されています (民法565条) 。そして、この数量指示売買の担保責任の規定は有償契約に準用されることとなっています (民法559条)。
    賃貸借契約はいうまでもなく賃料という対価を支払うことを内容とする契約ですから有償契約に該当し、数量指示売買の場合の担保責任の規定は賃貸借にも適用されるものと解されています。

    2 数量指示売買がなされた場合の処理内容

     民法は、売買において、「数量を指示して売買をした物に不足がある場合」には民法563条と564条を準用すると定めており (民法565条) 、563条は「その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。」として不足する部分の割合に応じた代金減額請求権と、「残存する部分のみであれば買主がこれを買受けなかったときは善意の買主は契約の解除をすることができる」(同条2項)、
    「代金減額の請求又は契約の解除は善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。」(同条3項)としており、これらの権利は買主が数量不足を知らなかった場合は事実を知った時から1年以内に、悪意の時は契約の時から1年以内に行使しなければならないと定められています(民法564条) 。

    (1) 「数量を指示して」の取引とは何か?

     そこで、「数量を指示」してなされた取引とはどのようなものかが問題となります。例えば建物賃貸借契約を締結する際に、貸室の面積が30坪存するということを表示してなされた賃貸借契約は「数量を指示」した取引に当たるのかということです。

     この点については、売買に関する判例ですが、「数量指示売買とは、当事者間において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積・容積・重量等を売主が契約において表示し、かつ、その数量を基礎として代金が定められた売買をいう」(最判昭和43年8月20日) とされています。つまり、「数量を指示」した取引とは、ただ単に数量を表示した取引のことではなく、「当事者間において目的物の実際に有する数量を確保するため」に、「一定の面積等を契約において表示し、かつ、その数量を基礎として代金が定められた」取引をいうものとされています。
    この考え方を前提に上記の最判は、取引の目的物を表示するのに登記簿上の面積等を表示することが通例であるが、「登記簿記載の坪数は必ずしも実測の坪数と一致するものではないから、売買契約において目的たる土地を登記簿記載の坪数をもって表示したとしても、これをもって直ちに売主がその坪数のあることを表示したものというべきではない。」としています。

    (2) 建物賃貸借の場合の「数量を指示」した契約

     上記の考え方は、建物賃貸借契約でも同様に解されています。東京地裁の昭和58年3月の判決では「数量を指示してなした賃貸借というためには、当事者が目的物件が実際に有する面積を確保するため、賃貸人が契約において一定の面積があることを表示し、かつ、これを基礎として賃料等の定められたこと」を要するものとしています。
    その上で、当該事案については、契約当事者にとって表示面積が契約の重要な部分とされたものではないことを認定し「右表示は原告の賃借部分が実際に右面積を有することを確保するためになされたものとは到底認め難く、むしろ賃料算出のための一応の基準として表示されたものに過ぎない。」との判断をしています。
    実際の取引では、例えば、床面積が30坪あり、賃料単価は坪当たり2万円だから賃料額は60万円とするという合意をすることは少なくないと思われますが、そのすべてが「数量を指示」したものとみなされるわけではなく、その面積表示が「賃借部分が実際に右面積を有することを確保するためになされたもの」と認められるか否かにより結論が違ってくることになります。当事者があくまで一定以上の面積があることにこだわり、それを前提に賃料額が合意されたような場合に、面積の不足が判明すれば、賃料を減額すべきことになります。

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