法律相談
月刊不動産2006年3月号掲載
設計事務所の責任
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
新築の建売住宅を購入しましたが、設計と施工が杜撰だったため、壁や筋かいに瑕疵があって耐力が不十分であり、補強工事を必要とすることが判明しました。売主と施工業者はすでに倒産しています。売主からの依頼により設計と工事監理を担当していた建築士に対し、損害賠償を請求することができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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建築士に対し、補強工事のための費用などを損害として請求をすることができます。
新築住宅の購入者は、構造耐力上主要な部分の瑕疵については、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、売主に対して、10年間瑕疵担保責任を追及することができます(品確法88条)。構造耐力上主要な部分とは、基礎、基礎ぐい、壁、小屋根、土台、筋かいなどです(品確法施行令6条)。本件の場合、壁や筋かいの瑕疵のために補強工事を必要とするのですから、品確法に基づいて売主に対して瑕疵担保責任を問うことが可能です。
しかし売主が倒産していますので、品確法による責任追及には、実効性がありません。また施工業者に対する責任の追及もできるはずですが、倒産してしまっているので、施工業者による損害の補填も、期待することができません。そこで設計監理を行った建築士に対して責任を追及することができるかどうかの検討が重要になります。さて建築士の仕事としては、設計と工事監理があります。設計は建物の形や設備などについて思想や感情などを表現した図面を作製する行為であり、工事監理とは設計図書のとおりに工事が実施されているかどうかを確認することをいいます(建築士法2条6項)。
本件において建築士は、売主との契約関係に基づいて設計と工事監理を担当していたものであり、購入者との間で設計や工事監理の契約を締結しているわけではありませんから、購入者が建築士に対して、契約に基づく請求をすることはできません。
けれども建築士は、設計監理の専門家として、法令に適合するよう、安全な住宅をつくり、あるいは工事監理を行う義務があります。安全性を欠いた設計をしたことや杜撰な工事を見逃したことに故意又は過失があれば、購入者との関係において、不法行為に該当するものとして、損害賠償を請求することができます(民法709条)。最高裁も「建築物を建築し、又は購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供すること等のために、建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての特別の地位が与えられていることにかんがみると、建築士は、その業務を行うに当たり、新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において、建築士法及び法の規定による規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があるものというべきであり、建築士が故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には、その行為により損害を被った建築物の購入者に対し、不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である」と判断しています(最高裁平成15年11月14日判決、最高裁ホームページ)。
ところで平成17年11月に耐震強度偽装問題が発覚し、社会問題になっています。従来の欠陥住宅の問題が、主に設計図書のとおりに建物がつくられていないという施工上の問題であったのに対し、今回の問題は、施工ではなく、設計そのものが違法であり、安全性の欠如しているものであったという点に特徴があります。そのため設計や確認に関係した者に対する責任の追及の検討が必要になっています。
設計において違法性があれば建築士に対して損害賠償を請求することができるのは当然ですが、これに加え、建築基準法上必要とされる特定行政庁の確認に違法性があれば、都道府県に対しても損害賠償を請求することができます。古い事例ですが、実際に特定行政庁が行った確認行為について県に対する損害賠償が認められた事案もあります(山口地裁岩国支部昭和42年8月16日判決)。耐震強度偽装の問題が世間の耳目を集め、一般消費者も設計や施工に注目するようになりました。業者としても、取引対象の設計や施工に関心をもち、設計や施工を行ったのが誰であったのかについて、可能な限り把握しておくことが必要になってきているように思えます。