賃貸相談
月刊不動産2004年4月号掲載
解約予告の撤回
弁護士 田中 紘三(田中紘三法律事務所)
Q
事務所を賃貸しているオーナーです。3ヶ月後に出ていくといっていたテナントが、急に出て行かないと言い出しました。既に次のテナントも決まっており困っています。退去してもらうことはできるのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.賃貸借契約書に、「賃借人は、中途解約を申し入れることができる。解約の効力は、解約申入日から30日の経過をもって発生する」などの規定を設ける場合があります。契約締結自由の原則から、このような解約権留保の規定(民法618条)を設けることも可能です。なお、いずれの当事者も中途解約できるという規定を設けた場合、賃貸人がその規定をもとに中途解約するためには正当事由が必要であるとされています(借地借家法28条)。解約権留保の規定がない場合には、賃貸借契約期間中の一方的な解約申入れは認められませんが、賃貸人が賃借人の解約申入れを承諾して両当事者の合意により賃貸借契約を解約するなどということは可能です。
2.賃貸借契約期間が経過し、法定更新された場合には、期限の定め無き賃貸借契約となります。この場合には、当事者の両方に解約権が認められ、当事者が解約を申し入れてから3ヶ月が経過することにより、賃貸借契約は終了することになります(民法617条)。ただし、賃借人が中途解約の申入れができるのは正当事由のある場合に限られ(同法28条)、解約予告期間は6ヶ月とされています(同法27条)。
3.ご質問のテナントは、中途解約の申入れ(解約予告)を撤回したいということですが、原則として、解約予告は撤回できません。これは、解除の意思表示は取り消すことができないという民法540条2項の規定を根拠とするものです。あるテナントが商売不振につき3ヶ月後に退社を予定して解約予告をし、閉店セールを始めたところ、それがきっかけで商売大繁盛に転じてしまったものの、打つ手がなかったという実話もあります。
4.解約予告の撤回が認められない以上、テナントが行った解約予告が有効であり、オーナーは、解約予告期限が満了すれば、テナントに対して退去を要求することができます。解約予告期間満了後の居すわりは不法占拠の扱いになり、賃貸借契約書中に賃料倍額相当の使用損害金を支払う旨の条項があればそれが適用されます。テナントが解約予告の撤回が認められたと思って賃料を支払い続けている場合でも、オーナーはそれを使用損害金として受領することができます。さらに、オーナーは、テナントに対し、新賃貸人の募集費等の損害賠償請求をすることも可能ですが、慰謝料については認められる余地はほとんどありません。
5.他方において、オーナーの側からすると、社会経済情勢の変化により賃料が値下がり傾向にあったり、あるいは他のテナントを見つけるのが困難であるという事情により、テナントを見つけるのが困難であるという事情により、テナントが解約予告をした場合でもそれを自ら撤回してくれた方がありがたいというときもあるでしょう。このような場合、賃貸人が賃借人との間で、解約予告の撤回を認めて引き続き貸すことにするという合意をすることは可能です。ただし、賃貸人として解約してほしくないという場合であっても、賃貸人の側から賃借人に解約予告を撤回させることはできません。
6.以上のとおり、賃貸人が解約予告の撤回を認めるかどうかによって、その後の賃借人との法的関係は大きく異なってくるため、解約予告の撤回の扱いが後に大きな争点に発展する可能性があります。そこで、賃貸人としては、あいまいな対応をとらず、解約予告の撤回を認めるかどうかを書面で明確にしておくべきです。