税務相談
月刊不動産2009年10月号掲載
親子間で敷金付きの貸家を贈与した場合の税務
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
親から子に借家人からの敷金付きで貸家を贈与した場合の、税務上の取扱いについて教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.負担付贈与の税務
(1) 負担付贈与
債務の引受けを条件として行われる財産の贈与を負担付贈与といいます。
負担付贈与が行われた場合、贈与により財産を取得した者と贈与をした者の税務上の取扱いは、原則として次の(2)や(3)のようになります。
(2) 負担付贈与により財産を取得した者の税務
①課税対象
負担付贈与により財産を取得した場合は、負担となる敷金の引受けがないものとしたときにおける贈与財産の価額から、その負担額を控除した価額が贈与税の課税対象とされます。
②財産の価額
負担付贈与の場合の財産の価額は、「通常の取引価額」となります。
(3) 財産の贈与をした親の税務
負担付贈与をした者は、贈与した財産について贈与を受けた者が負担した債務相当額で譲渡をしたものとみなされ、譲渡所得課税が行われます。
2.借家人からの敷金付きで貸家を贈与した場合の税務
(1) 贈与財産の評価
通常の贈与により財産を取得した場合、贈与税の課税対象とされる贈与財産の価額は、財産評価基本通達の規定に基づいて計算した額(相続税評価額)となります。例えば貸家の場合、財産評価基本通達に基づく評価によると、相続税評価額は「固定資産税評価額×(1-借家権割合0.3)×賃貸割合」という算式で計算します。一般に家屋の固定資産税評価額は建築価額の50%から70%程度の額となりますので、新築の賃貸物件を贈与した場合であっても相続税評価額は相当低くなります。
これに対し負担付贈与の場合は、贈与財産の価額は通常の取引価額から負担額を控除した額とされます。つまり、親から子に敷金のある貸家を贈与する場合、負担付贈与に該当するかどうかで貸家の価額が大きく異なります。
例えば、通常の取引価額が7,000万円、相続税評価額3,000万円、借家人からの敷金の総額が600万円の貸家を親から子に贈与した場合、その贈与が負担付贈与に該当すれば相続税評価額3,000万円ではなく、7,000万円から600万円を控除した6,400万円が子の贈与税の課税対象となります。
(2) 負担付贈与に該当するかどうかの検討
借家人から預かった敷金の法的性格に基づき、貸家の贈与が負担付贈与に該当するかどうかを検討すると、次のようになります。
①貸家のみを贈与した場合
建物の賃貸借契約における敷金とは、借家人が賃料等の債務を担保するために契約成立の際、あらかじめ賃貸人に差し入れる金銭をいいます。
さらに、貸家の所有権の移転があった場合には、移転前の所有者に差し入れた敷金が残っている限りは、例え当事者間に敷金の引継ぎに関する合意がなくても、賃貸中の建物の新所有者は当然に敷金を引き継ぐとされています。
このため、親が賃借人に係る敷金を残したまま子に対して貸家を贈与した場合は、法形式上は負担付贈与に該当することになります。
②敷金相当額の金銭を合わせて贈与した場合
①の場合において、貸家の贈与と合わせて親が子に敷金に相当する金銭の贈与を同時に行っているときは、親は敷金という債務を子に引き受けさせる意図がなく、子に実質的な負担はないという考えもあります。
この考えを受けて国税庁は、平成16年に「貸家と一緒に敷金に相当する金銭を贈与している場合には、負担付贈与に該当しない」という見解を発表しました。
つまり、貸家の贈与を行う際に、その貸家に係る敷金相当額の金銭の贈与を同時に行っていれば通常の贈与と同様に取り扱われ、貸家の評価を相続税、新価額、すなわち「固定資産税評価額×(1-借家権割合0.3)×賃貸割合」で行ってよい、という取扱いが明らかになったわけです。
③貸家と敷金相当の金銭の贈与をした者の税務
親が子に貸家の贈与を行う際に、その貸家に係る敷金相当額の金銭の贈与を同時に行った場合は、②より負担付贈与に該当しないことから譲渡の対価がないと考えられます。このため、親について譲渡所得課税は生じません。