労務相談

月刊不動産2022年2月号掲載

職場でのハラスメント対策(後編)

野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所パートナー社員)


Q

パワーハラスメント(以下「パワハラ」)に関する法律が整備されたと聞きましたが、企業としてどのような対応が求められているのか(しなければならないのか)、教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     2020年6月より職場におけるハラスメント防止対策が強化されており、2022年4月からは中小企業にもパワハラ防止法が適用されます。企業には、方針表明、相談窓口・体制の整備、再発防止措置などの対応が求められますが、そのためには、パワハラを正しく理解し、社員教育や社内周知に役立てる必要があります。
     前回はパワハラの定義や考え方について説明しました。今回は職場におけるパワハラ防止のために、事業主が講ずべき措置について解説します。

  • 1. 事業主等の責務

     パワハラ防止法では、事業主の責務として、以下の事項に努めることが明確化されておりますが、労働者の責務にまで触れている点が特徴的です。

    ①企業の責務
    ・職場におけるハラスメント問題に対する労働者の関心と理解を深めること
    ・その雇用する労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと
    ・事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うこと

    ②労働者の責務
    ・ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うこと
    ・事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること

     「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、職場に含まれます。勤務時間外であっても、忘年会など従業員全員が参加する宴会の場なども職場に含まれますので、酔った勢いでの言動にも注意しなければなりません。また「労働者」には、派遣労働者、取引先等が雇用する労働者、個人事業主(フリーランス)、求職・採用予定者、インターン・教育実習生等も含まれます。

  • 2. 企業に求められる措置

    ①企業の方針等の明確化とその周知・啓発
    ・就業規則、その他の職場における服務規律等を定めた文書で、パワハラを行ってはならない旨の方針を規定する
    ・社内報、パンフレット、社内ホームページ等に方針を記載し、配布する・労働者に対して周知・啓発するための研修、講習等を実施する
    ・懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発する

    ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
    ・相談に対応する担当者をあらかじめ定める
    ・相談に対応するための制度を設ける
    ・外部の機関に相談に対しての対応を委託する
    ・相談窓口の担当者が相談を受けた場合、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図る
    ・相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応する
    ・相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行う

    ③事後の迅速かつ適切な対応
    ・事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認する
    ・被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を速やかに、かつ適正に行う
    ・事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う
    ・再発防止に向けた措置を講じる

    ④併せて講ずべき措置
    ・相談者、行為者のプライバシー保護のための措置
    ・不利益な取り扱いの禁止
    ・その他のハラスメントの相談窓口と一体的、かつ一元的に相談に応じる体制の整備

     相談窓口の整備、担当者の選任については、苦情処理相談窓口と共に対応済の企業も多いかもしれませんが、その窓口は利用しやすいものとなっていますでしょうか。裁判では、形式ではなく実質が問われますし、裁判になるような事案でなくても、労働者がメンタル不調になり、休職や退職してしまうことに鑑みれば、きちんと機能する相談窓口や体制を整備することが重要です。
     研修についても、一度きりでは効果が薄く、企業側の対策として不十分とみられる可能性が高いといえます。特に管理職については、定期的に研修を重ねることが肝要です。

  • 3. 不利益取り扱いの禁止

     パワハラ防止法では、労働者が職場におけるパワハラについての相談を行ったことや、雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇、その他不利益な取り扱いをすることが禁止されています。

  • 4. 加害者の処分と再教育

     問題となった行為内容や加害者の役職などに応じ、加害者に対し懲戒処分を行うこともありますが、懲戒処分を行うためには、懲戒の事由、種類、程度をあらかじめ就業規則等に明示しておく必要があります。そのうえで当該行為の悪質性の程度に見合った処分を選択しなければなりません。
     加害者への対応は懲戒処分に限りません。警告・注意・始末書提出などの指導に留めることもありますし、再発防止が真に図られるよう、再教育(外部研修への強制参加)や加害者の上司による日常的な監督・指導等も考えられます。

  • 5. フォローアップ

     被害者・加害者ともに心理的ダメージを受けることが多くみられます。特に被害者は、大きな精神的ダメージを受けていることが多く、場合によっては医療機関を紹介するなど、メンタルケアが必要となります。加害者に対しても、自分の言動を相手がどう受け取っていたかを理解させ、誤解を与えないよう促すことが必要です。

  • 6. まとめ

     上司が部下に対して、いじめや嫌がらせを行った場合、多くの部下が我慢することを選択します。というのも、反論しさらに上司を怒らせてしまうと、その後の人事評価などにおいて不利益を被る可能性が高いからです。反論できない状況で追い詰められた部下は、ストレスが溜まり心理的にも不安定になって訴えを起こしたり、気付いたときには精神疾患を発症していることもあります。
     よって、パワー(権利や権限)を持つ立場にある者は、部下や周囲の者が自身の言動をどのように受け止めるのかを十分に理解し、慎重に行動する必要があり、それが今日求められるマネジメント能力の一つといえます。

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