賃貸管理ビジネス

月刊不動産2023年3月号掲載

管理拡大5つのアプローチと費用対効果

今井 基次(みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役)


Q

 以前から管理受託戸数を増やしたいと営業活動をしているものの、受託営業に慣れていない人材が担当をしているからか、目標に到達するに至っていません。当社は、地場に根付いた不動産会社のため、昔からの地主さんとのつながりはありますが、管理受託となると一歩先へ踏み込めずにいます。さらに、地主さんは別の大手管理会社に委託している人も多く、そこに入り込んで管理を取得するのは、容易ではないと思っています。どうしても自社営業のリソースに頼ってしまうのですが、選択肢をもっと広げたいと思っています。何かよい方法があれば教えてください。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     管理受託は安定的な受託ルートができるまでには、相応の時間を要します。一朝一夕というわけにはいきません。長い時間をかけて、管理のブランドを作り込んでいかなければ認知されにくい事業だからです。地道にオーナー訪問を繰り返しても、毎回同じ結果になるのであれば、別の方法を探るのも1つの方法です。受託先はオーナー営業だけでなく、BtoB営業、建築企画や販売からの受託、M&Aなど、これまでのリソースだけに頼らないルート構築もできるはずです。それらを意識しながら、広い視点でマーケティング活動をしていくとよいでしょう。

  • 管理事業の拡大・安定に時間を要する理由

     管理事業は拡大すれば安定するものの、そこに至るまでにはそれ相応の時間が必要となります。参入障壁は低いものの、大きな資産を預かるにはそれなりの信用力が必要であり、簡単に管理戸数は増やせません。その理由はいくつかあるのですが、オーナーは多少の不満はあっても、お金の管理から雑務までお任せしている既存の管理会社から、むやみに管理を変更するリスクを嫌がります。
     また、地域に根ざしているがゆえ、新しい関係を作るよりも、これまでの関係を無下にできないという意識が働くことで、億劫になることもあるのでしょう。これにより、管理が他社に移行しにくい(競争が起こりにくい)環境となるため、後発参入はより時間がかかるのです。

  • オーナー開発2つのパターン

     管理事業拡大をするためには、大きく分けて5つの方法があります。冒頭に述べたのは、オーナーへの直接営業(BtoC)であり、最も一般的な方法と言えますが、後発参入するほど他社に勝る「明確な強み」が必要となります。言い方をかえれば「あなたの会社に管理を任せなければならない理由」が明確でなければ、競争優位には立てません。たとえば、「客づけが他社よりも強い」「管理料が安い」「会社や担当者が誰よりも信頼できる」などの圧倒的な強みです。この強みを明確にしないまま、ただ管理を増やそうとするから、実績が増えにくいのです。
     次に、ただ管理を請け負うだけではなく、自社での建築企画や物件販売から始めるパターンがあります。自社の企画物件である以上、建てて終わりということではオーナーの満足感が得られないため、建築企画販売は必ず管理もセットとなります。ただ管理を増やすのと違い、建物ありきなので主導権を握りやすい状態で受託活動を始められるため、管理戸数が増えやすいのが特徴です。一方で、企画力や土地や建物の仕入れという、管理そのものとは違う事業側面があるため、資金力や人的リソースも必要となります。

  • コア事業からの多角化と、ネットワーク化

     収益物件の売買仲介がコア事業の会社は、これまで管理事業に手を伸ばさなかったという話をよく聞きますが、すでに入口をつかんでいるのですから、事業を拡大させやすいことは間違いありません。
     販売(仲介)した後の管理という受け皿があれば、売って終わりの会社よりも信頼を得られやすいため、売買仲介と管理事業の親和性は高いと言えるでしょう。売買中心の会社は、管理事業が花形になりにくいため、評価されない担当者の離職率が高くなりやすいのも特徴です。管理部門の評価制度などを構築することが課題になります。
     反対に、自社では管理はやるが収益物件の売買仲介をしない会社の場合は、売買仲介のみを行う会社に対して営業をかけて業務提携(BtoB営業)するのも1つの方法です。また工務店や設計事務所、リフォーム会社などと提携をして、お互いにないものを補い合い、少ないリソースをまかないつつ相乗効果を出すという方法もよい考えです。

  • M&Aは今後、管理獲得の主流に

     最後に、最近少しずつ盛んになりつつありますが、M&Aや事業譲渡という方法があります。資本力のある企業が、管理会社を買ってグループ会社化する話がありますが、そこまでの規模ではない数百世帯の小さなM&Aや事業譲渡は、ニーズが顕在化していないだけで、潜在的には相当数あると言えるでしょう。団塊ジュニア世代が、親の事業を引き継がない場合、あずかっている管理物件の行き先がなくなります。オーナーから信頼が厚ければ厚いほど、会社を収束させるのが難しいため、実際には行動に移せないまま管理事業を続けているケースがあります。以前に比べると事業譲渡はビジネスライクになりつつあるため、短時間で戸数を増やせるこの方法は、今後ますます増えて主流になるでしょう。
     このように管理戸数を増やすアプローチはいくつかあります。自社のリソースと獲得目標を見極めながら最適な方法を見出しつつ、いくつかの領域を手がけることでより相乗効果が高まることになるでしょう。

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