法律相談
月刊不動産2002年12月号掲載
私は不動産業者ですが、今回、分譲マンションを売り出そうと考えています。
弁護士 草薙 一郎()
Q
私は不動産業者ですが、今回、分譲マンションを売り出そうと考えています。売主としてマンションを売却したあとでも、暴力団関係者などが入居してしまったときには、買主に対して責任が生じてしまうと聞いたことがあります。どんな内容なのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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【A】
売買契約ですので、売主として重要な義務は買主に対して売買の対象物件の所有権を移転させることであり、買主は売主に対して代金を支払うということが、売買での双方当事者の義務と言えます。
したがって、売却したあとのことは売主は関係ないというのが従前の考え方でした。
しかし、売買契約の当時、売買の対象物件の近くに暴力団事務所があったり、あるいは、分譲マンションの同じ建物の中に暴力団員がいて、周囲に迷惑をかけているような状態であったのに、これを知らずに物件を購入した買主は、売主に対して民法570条の瑕疵担保責任の規定に基づいて、損害賠償の請求が可能とされるようになりました。
もちろん、瑕疵担保責任ですので、買主はこういう状況を知って購入したときには、売主側の責任は生じませんが、売主業者側としては、こういったトラブルが生じないよう対象物件の周辺環境も調査しておく必要が生じています。【Q】
売却後に暴力団員が入ってきたときはどうでしょうか。【A】
このようなケースについては、札幌地方裁判所での判決が最近、判例集に掲載されましたので紹介します。
事案は公社が売主となっているマンションの分譲です。
いわゆる高級マンションとして、178戸を分譲する予定で、販売業者にその販売を依頼し、何期かに分けて分譲を開始しました。
ところが、途中から過大な費用上のサービスを提供したため、すでに購入した者からしてみると、当初、予定していない収入層の人たちが同じマンションで生活することになったわけです。
そして調べてみると、購入者の中に多くの暴力団関係者が含まれており、そのため、周辺で騒ぐなどしたため環境が悪化してしまいました。さらに入居者の中には管理費なども支払えない所有者も多くなり、管理組合が機能しなくなったのです。
そこで、買主から売主に対して、このようなことになったのは売主側の責任として損害賠償を求めたわけです。
これに対して裁判所は以下のような判断を下しました。「本件住宅のようなマンションを建築し分譲する者は、住戸の販売に際しては、代金の支払いを受けるのと引換えに、物件を引き渡し、移転登記手続をするのが基本的義務ではあるけれども、マンションの居住環境が全体の入居者によって形成されるというマンションの特質等にかんがみると、既に入居したものとの売買契約に基づく付随義務として、その後に未分譲の住戸を販売するに当たり、これらを暴力団関係者や不良入居者に販売することを回避しなければならず、具体的な状況に応じてそのために必要な方策をとるべき義務を負うものと解するのが相当である」として、売主はこの義務を尽くしていないとして損害賠償責任を認めました。
この件は控訴されており、別の判決が出されることも考えられますが、売主としては、売却にあたって買主の資力などの調査を十分にしておかないと、すでに売却した買主から何らかの請求を受けてしまう可能性もでてきたわけです。仲介業者でも依頼した売主との関係では同様の義務を負うと考えた方が妥当でしょう。