税務相談
月刊不動産2012年6月号掲載
相続により賃貸不動産を承継した場合の消費税の納税義務の免除の特例
情報企画室長 税理士 山崎 信義(税理士法人 タクトコンサルティング)
Q
個人が賃貸不動産を相続により承継した場合の消費税の納税義務の免除の特例について教えてください。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.納税義務の判定の原則
その年(課税期間)に係る基準期間(原則、その年の前々年)における課税売上高が1,000万円以下である個人事業者は、原則、その年中の課税資産の譲渡等について、消費税の納税義務が免除されます。
2.特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合
平成24 年1月1日以降、特定期間(個人事業者は原則、その年の前年1月1日から6月30日)の課税売上高が1,000万円超の個人事業者は、その年中の課税資産の譲渡等につき消費税の課税事業者に該当します(平成23年度税制改正で創設)。なお、この特定期間の課税売上高に代えて、同期間の給与等支払額の合計額が1,000万円超であるかどうかにより、消費税の納税義務の有無を判定することもできます。
3.相続があった場合の納税義務の免除の特例
不動産賃貸業など事業を営んでいた個人に相続が発生し、相続人が相続により被相続人の事業の全部または一部を継続して行うため、賃貸不動産などの財産の全部または一部を承継した場合、相続人の消費税の納税義務の判定については、前述1.と2.に加えて次の特例が設けられています。
(1)相続開始年
その年に相続があった場合において、その年(相続があった年)の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である相続人で課税事業者の選択届出をしていない人が、その基準期間における課税売上高が1,000万円超の被相続人の事業を承継したときは、その相続人のその相続のあった日の翌日からその年12月31日までの間の課税資産の譲渡等については、前述1.の納税義務の免除の規定が適用されません。
この場合の「その年の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である相続人」とは、次の相続人が該当します。
①相続のあった日において現に事業を行っている相続人で、相続のあった年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者
②相続があった年の基準期間において、事業を行っていない相続人
例えば、相続のあった年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である相続人であっても、被相続人の相続のあった年の基準期間における課税売上高が1,000万円超の場合は、相続のあった日の翌日からその年の12月31日までの課税資産の譲渡等について納税義務が免除されません。
(2)相続開始年の翌年又は翌々年
その年の前年又は前々年において相続により被相続人の事業を承継した相続人が、その年の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その相続人の基準期間における課税売上高と、被相続人のその基準期間における課税売上高との合計額が1,000万円を超えるときは、相続人のその年の課税資産の譲渡等については、前述1.の納税義務の免除の規定が適用されません。
(3)未分割の場合の納税義務の判定
上記(1)又は(2)の場合において、相続人が二人以上であるときは、相続財産の分割が行われるまでの間は、被相続人の事業を承継する相続人が確定しないことから、各相続人が共同して被相続人の事業を承継したものとして取り扱われます。
この場合、各相続人のその年の基準期間における課税売上高は、被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の相続分に応じた割合を乗じた金額とします。
(4)相続人が分割承継した場合の納税義務の判定
相続により、二か所以上の事業場を有する被相続人の事業を、二人以上の相続人がこれら事業場を事業場ごとに分割して承継した場合、前述の(1)又は(2)の適用については、被相続人の基準期間における課税売上高を、その被相続人のその基準期間の課税売上高のうち、その相続人が相続した事業場に係る部分の金額として計算します。
(5)消費税課税事業者届出書の提出
相続により被相続人の事業を承継したことにより課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円超となった人は、「消費税課税事業者届出書」と「相続・合併・分割があったことにより課税事業者となる場合の付表」を、速やかに納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
(6)被相続人による課税事業者選択届出書の効力
免税事業者である被相続人が提出した「課税事業者選択届出書」の効力は、相続により被相続人の事業を承継した相続人には継承されません。免税事業者となる相続人が課税事業者を選択したい場合には、新たに課税事業者選択届出書を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。