法律相談
月刊不動産2024年1月号掲載
登記引取請求と買主の義務について
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
先日、土地を売却しました。買主から売買代金が全額支払われ、土地の引渡しを行いました。しかし、買主による所有権移転登記の手続きがなされていません。買主に登記を引き取るように請求することができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
不動産の売主には登記を引き取るよう求める権利(登記引取請求権)がありますから、買主に登記を引き取るように請求することができます。買主が故意に所有権移転登記手続に協力しない場合には、訴えを提起して判決を得たうえで、単独で判決による登記をすることも可能です。
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買主の所有権移転登記手続を求める権利
売買契約において、売主には、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転の対抗要件を備えさせる義務があります(民法560条)。不動産の権利移転の対抗要件は不動産登記です(民法177条)。不動産売買では、売主は、買主に対して、不動産登記手続に協力することが義務づけられています。
わが国の法制度においては、不動産の権利を取得しても、不動産登記を経なければ権利を第三者に対抗することができず、不動産の権利の取得は、不動産登記を具備することによってはじめて確かなものとなります。一般的にみると、所有権の移転は買主にとっての権利を確保するために必要なことですから、買主が所有権移転登記手続を行わないという事態は、通常は生じません。 -
買主の所有権移転登記手続を行う義務
しかし、所有権移転登記手続を経て、自らが登記名義人になると、権利を確保できる反面、固定資産税が課されます( 地方税法343条1項・2項)。また、登記名義が残されていると、工作物責任を負うことにもなりかねません(民法717条)。そのために、売買代金が支払われた後になっても、買主が登記を引き取ろうとしないケースがあります。登記名義が変更されないと、売主が、固定資産税の課税などの不利益を受けることになります。
そこで、売主には、買主に対して、登記引取請求権が認められています。最判昭和36.11.24民集15巻10号2573頁では、『真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その登記の当事者の一方は他の当事者に対し、いずれも登記をして真実に合致せしめることを内容とする登記請求権を有するとともに、他の当事者は右登記請求に応じて登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負う』と述べられています。売買契約の当事者が死亡した後であっても、売主死亡後には売主の相続人が買主に対して、買主死亡後には、売主が買主の相続人に対して、それぞれ登記の引取を求めることができます。なお、登記引取請求権は、一般に、物権に準じて、消滅時効にはかからないと考えられています(東京地判平成12.8.31LLI05530463)。 -
共同申請の原則
ところで、不動産登記法上、不動産の権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同してしなければなりません(同法60条)。そうすると、売買契約が締結されても、契約の相手方が所有権移転登記手続に協力しない場合には、登記申請の手続きができないことになってしまいます。そこで、共同申請により登記手続をしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決があれば、単独で登記を申請することができるものとされています(同法63条)。買主が売買代金を支払った後にも、登記を引き取らない場合には、売主は、買主に対して訴えを提起して判決を取得し、判決の確定後に、判決に基づいて単独で、売主から買主への所有権移転登記手続を行うことになります(同法61条。不動産登記令7条5号(ロ)(1))。
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まとめ