法律相談
月刊不動産2018年5月号掲載
申込みの報告義務
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
戸建て住宅の所有者から、売買仲介の依頼を受けています。売却希望価格は1,800万円です。今般、1,500万円で購入したいという申込みを受けました。売却希望価格とは大きな差がありますが、この申込みを依頼者に報告しなければならないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1. 報告義務がある
依頼者に報告しなければなりません。宅建業者には、依頼者から受託されている売買の媒介業務に関して申込みがあったときには、これを報告する義務があります。購入希望価格が売却希望価格に達しない場合でも、都度報告することを要します。
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2.媒介業務における宅建業者の報告義務
(1)一般的な義務
さて、宅建業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければなりません(宅建業法31条1項)。また、媒介契約を締結したときには、依頼者との関係は委任(あるいは準委任)の関係となります。そして、委任者との関係においては、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意(善管注意)をもって、委任事務を処理する義務を負います(民法644条、656条)。
(2)報告義務の概要
依頼者への受託業務の状況報告は、信義をもって誠実に行うべき業務となります。民法では、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」(同法645条)と定められていますが、宅建業者の業務報告は、請求があったときと委任が終了するときだけに行うのでは不十分です。宅建業法上、専任媒介契約(専属以外)の場合には2週間に1回以上、専属専任媒介契約の場合には1週間に1回以上、業務の状況報告を行わなければならないものとされています(宅建業法34条の2第9項)。
申込みがされているのにこれを依頼者に報告しないのは、宅建業者としてあるまじき行為です。しかしながら、従来このようなことが散見されていたため、平成28年の宅建業法改正によって、「媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあつたときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない」との定めが設けられました(同法34条の2第8項)。
(3)申込み報告義務の内容
① 報告義務のある場合
宅建業者が依頼者への報告義務を負うのは、買受申込書など売買・交換の希望が明確に示された文書による申込みがあった場合です。書面が直接、手渡しされたり郵送されたりする場合のほか、電子メール等によって提出される場合も含まれます。既存住宅だけでなく、新築住宅、オフィスビルや商業施設等も含め、すべての宅地建物について、売買や交換の申込みがあった場合に、依頼者に対して遅滞なく、その都度報告する義務があります。
媒介契約の種別としては、一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約のいずれの形式の媒介であっても、報告義務が課されます。
② 報告内容
個別の報告内容については、宅建業者と依頼者との間の取り決めによります。たとえば、購入申込書等に記載されている事項が報告内容になります。
また、文書による申込みがあったときには、売主の希望条件を満たさない場合であっても報告をしなければなりません。ご質問のケースのように、売却希望価格を大きく下回る申込みであっても、宅建業者の報告義務に影響を与えません。
③ 報告の時期
報告は遅滞なく行わなければなりません。何日以内に報告しなければならないなどの具体的な期限を決めたルールはありませんが、文書による申込みがあった場合には、必要な確認・手続等を行った後、速やかに媒介依頼者に報告することが求められます。
④ 報告の手段
報告の手段に制約はありません。専任媒介契約・専属専任媒介契約における業務状況に関する定期報告の方法に準じて、文書、電子メール、口頭のいずれでも構いません。
なお、報告をしなかった場合、指示処分等の行政処分の対象となり、また、行政処分に従わない場合には、罰則の対象となる可能性もあります。
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3.まとめ