法律相談

月刊不動産2006年10月号掲載

瑕疵担保責任の消滅時効

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

建物を改築しようとしたところ、12年前に購入して引渡しを受けた敷地に瑕疵があるため、改築に制約があることが判明しました。瑕疵に気付いたのは先月のことです。土地の売主に対し瑕疵担保による損害賠償責任を追及できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  瑕疵担保による損害賠償請求権は、10年間権利を行使しないと時効により消滅します。ご質問のケースは、売買契約から12年が経過していますので、残念ながら売主に対する瑕疵担保責任の追及はできません。

     さて民法では、売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこのことを知らないときは損害賠償を請求できると定められているとともに(同法566条1項)、この条項が、売買の目的物に隠れた瑕疵があったケースに準用されることになっています(同法570条本文)。したがって売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合、買主は、損害賠償請求をすることができます。売買の目的物の隠れたる瑕疵について売主が負担しなければならない責任を、瑕疵担保責任といいます。

     ところで瑕疵担保に基づく権利を行使すべき期間については、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならないとされ(同法566条3項)、事実を知ってから1年以内ならいつ事実を知ったのであっても権利行使ができるようにと読める条文がある一方、債権は10年間これを行使しないときは消滅するという定めもあります(同法167条1項)。

     そのため引渡しから10年を経過した後に瑕疵を知った場合、瑕疵を知ってから1年以内なら権利行使ができるのか、あるいは、時効消滅により権利行使ができなくなっているのかが問題となるケースが生じます。

     この点について、最高裁は、瑕疵担保による損害賠償請求権は引渡しから10年間の消滅時効にかかると判断しています(最高裁平成13年11月27日判決)。

     裁判例で問題となった事案は次のとおりです。

     土地建物を購入し長期間居住していた買主が、建物が老朽化したため建物を改築しようとしたところ、土地の一部に道路位置指定がなされているため、建物の改築に当たり床面積を大幅に縮小しなければならないという支障の生ずることが分かりました。そこで買主は、売主に対し、瑕疵担保による損害賠償を請求しました。買主がこの請求をしたのは、瑕疵を発見してから1年以内でしたが、売買契約及び土地引渡しから20年以上経過した後でした。

     最高裁では、「買主の売主に対する瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であって、これが民法167条1項にいう『債権』に当たることは明らかである。この損害賠償請求権については、買主が事実を知った日から1年という除斥期間の定めがあるが(同法570条、 566条3項)、これは法律関係の早期安定のために買主が権利を行使すべき期間を特に限定したものであるから、この除斥期間の定めがあることをもって、瑕疵担保による損害賠償請求権につき同法167条1項の適用が排除されると解することはできない。さらに、買主が売買の目的物の引渡しを受けた後であれば、遅くとも通常の消滅時効期間の満了までの間に瑕疵を発見して損害賠償請求権を行使することを買主に期待しても不合理でないと解されるのに対し、瑕疵担保による損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がないとすると、買主が瑕疵に気付かない限り、買主の権利が永久に存続することになるが、これは売主に過大な負担を課するものであって、適当といえない。したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用がある」とされました。

     消滅時効の起算点については、権利を行使することにつき法律上の障害がなくなった時であるとするのが一般的な考え方であり、瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効は、引渡しの時が起算点になるとされています。

     宅地建物の購入者の意識の高まりとともに過去の取引が問題とされるケースも多くなっています。以前取り扱った案件が問題とされた場合であっても、適切な対応が求められます。瑕疵担保による損害賠償請求権の消滅時効の最高裁判決は、宅地建物取引業者にとって必ず知っておく必要のある判決です。

     なお、民法上の不法行為が成立するケースであれば、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間、又は、不法行為の時から20年間は、損害賠償請求ができます。

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