法律相談
月刊不動産2023年2月号掲載
特定生産緑地の指定
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
当社が営業活動を行っている地域において、地元の農家の所有する農地が、特定生産緑地に指定されたとききました。特定生産緑地の指定というのは、どのような意味をもつのでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
-
回答
特定生産緑地は、従来の生産緑地のうち、特に継続して緑地としての保全が必要な農地について指定されます。特定生産緑地の指定がなされると、生産緑地としての指定前の行為制限は続きますが、買取りの申出ができるまでの期間が10年間延期され、従前どおりの税制優遇措置が受けられます。
-
1.生産緑地の制度
さて、都市農地は、生産緑地法の1992(平成4)年改正によって、宅地化農地(宅地化するもの)と生産緑地(農地として保全するもの)に分けられました。
生産緑地は、市街化区域内の農地のうち、公共施設等の敷地として適する500㎡以上(市区町村が条例を定めれば、300㎡までの引下げが可能)の農地について、指定されています。生産緑地に指定されると、農地等として管理すべき義務が課され(営農義務。生産緑地法7条1項)、農業用施設以外の建築や宅地の造成や土地の形質の変更等を行うことが禁止されます(建築・造成規制。同法8条1項)。農産物の生産や集荷等の用に供する施設や、農産物の直売所、製造・加工場、農家レストランなどの建築であれば許可されますが、これらに該当しない建築物や工作物等の施設の建築等は許可されません(同法8条2項1号・2号)。他方で、生産緑地については、固定資産税が一般農地並みの課税がなされ、相続税の納税猶予などの優遇措置を受けられます。 -
2.2022年問題
生産緑地の所有者には営農義務および建築・造成規制という行為制限が課されますので、事情変更や期間経過によって、指定を解除する必要があります。そのために、①生産緑地地区の都市計画決定の告示の日から30年を経過したとき、または②主たる従事者が死亡、もしくは農業等に従事することを不可能にさせる故障を有することになったときには、市区町村長に対し、生産緑地を時価で買い取ることを申し出ることができるものとされています(生産緑地法10条)。
ところで、生産緑地の8割が1992(平成4)年に指定されていました。そのため、その後30年が経過する2022(令和4)年には、多くの生産緑地が①にあてはまり、2022年以降、都市部の農地が大量に宅地として売り出されるのではないかといわれていました。これが、2022年問題です。 -
3.特定生産緑地の制度
都市部の農地が大量に売り出されると、都市農地の保全に支障を来し、市場が混乱することが懸念されます。そのため、2017(平成29)年に生産緑地法が改正され、生産緑地の所有者等の意向を基にして、市区町村長が従前の生産緑地について、あらためて特定生産緑地として指定できることになりました。
特定生産緑地に指定された場合には、農地の所有者には従前どおりの行為規制が課される一方で、買取りの申出ができる時期が10年延期され(10年経過する前であれば、改めて所有者等の同意を得て、繰り返し10年の延長が可能)、従来の生産緑地に措置されてきた優遇税制が継続されます。なお、特定生産緑地の指定がなされない場合には、買取りの申出ができますが、買取りの申出をしない場合でも、従来の税制措置は受けられなくなります。 -
4.特定生産緑地の指定の状況
国土交通省が、平成4年指定の生産緑地を有する自治体に特定生産緑地の指定見込みについて調査を行ったところ、令和4年6月末日の時点において、指定済みおよび指定が見込まれる生産緑地は全体の89%、指定の意向がない生産緑地は10%(残りの1%が指定意向未定)であったという結果でした。
この結果は、予想されていた2022年問題が社会問題化しなかったことを示すものです。現在までのところでは、生産緑地の取扱いは、指定開始後30年経過前と大きな違いがないということになっています。もっとも、生産緑地がこの先もずっと農地のままというわけではなく、多くの都市農地の宅地化が先延ばしになったにすぎません。また、現時点において生産緑地の指定から30年経過して、売りに出される土地もないわけではありません。
生産緑地の仕組みは広く浸透しており、三大都市圏の市街化区域内農地の約5割を生産緑地が占めるに至っています。土地取引に責任のある不動産業者のみなさまにとっては、都市農地の宅地化についてどのような状況が生じても、適切な対応ができるようにしておくべきであり、特定生産緑地の仕組みが設けられても、都市農地の制度を正しく把握しておくことは必要です。