法律相談

月刊不動産年月号掲載

無免許営業のほう助

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

 仮換地の指定がなされ、宅地化されて価格が上がる可能性が高い複数の土地の購入を、宅建業者から勧められています。事業に利用する予定や計画はないのですが、将来は転売が可能なので、土地を購入してもよいと考えています。
 当社は宅地建物取引業の免許を有していません。このような土地を購入し、転売することは、宅建業法違反にならないでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 回答

     宅建業法に違反します。ご質問の行為は、宅建業法上の宅地の売買であって、かつ、業として行うものですから、宅地建物取引業の免許がない者が行えば、無免許営業になり、処罰されます。

  • 都道府県知事の免許

     宅地建物取引業を営もうとする者は、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けなければなりません(宅地建物取引業法〈以下、宅建業法〉3条1項)。免許を受けない者については、宅地建物取引業を営むことは禁止されます(無免許営業の禁止。同法12条1項)。無免許営業を行った者は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処され、またはこれらが併科されます(同法79条2号)。

  • 宅地建物取引業

     宅地建物取引業とは、『宅地もしくは建物の売買もしくは交換または宅地もしくは建物の売買、交換もしくは貸借の代理もしくは媒介をする行為』であって、「業として行う」ものです(同法2条2号)。「業として行う」とは、宅地建物の取引を社会通念上事業の遂行とみることができる程度に行う状態を指します。その判断は、①取引の対象者、②取引の目的、③取引対象物件の取得経緯、④取引の態様、⑤取引の反復継続性を参考に、諸要因を勘案して総合的に行われます(解釈・運用の考え方第2条第2号関係)(図表1)。

     

  • 裁判例

    (1)仮換地の転売
     土地区画整理事業において、区画変更前の宅地(従前の宅地)の権利は、工事が完了し公告がなされた時点で換地の効果が生じ、区画変更後の宅地の権利(新しい宅地)に移りますが(土地区画整理法103条・104条)、工事完了までは長い時間がかかります。そのため、先に工事が完成した地区において仮の換地がなされて、土地の利用が認められています。この場合に土地の利用が認められる土地が「仮換地」です(同法98条)。
     仮換地については、一般にそのまま換地がなされますので、不動産取引では、通常の土地の売買と同様に仮換地も取引対象として扱われます。
     名古屋高判令和4.9.15-2022WLJPCA09156004では、仮換地を購入して転売する行為が無免許で行われた場合には、転売行為は宅建業法違反にあたり、またこの場合に売買を勧めた宅建業者は宅建業法違反のほう助犯になると判断されました。

    (2)無免許営業行為
     この裁判例は、宅建業者でない事業法人の代表取締役Aが、土地区画整理事業区域内の土地(本件各土地)について、宅建業者代表取締役Xから勧められて、将来の転売を想定して購入し、第三者に転売したケースです。本件各土地は仮換地の指定がなされている土地でした。判決では、Aの行為について、『事業に利用する予定や計画がないまま、仮換地の指定がされていて、いずれ宅地化されて価格が上がる可能性が高い本件各土地を購入したが、いずれ転売する予定であって、実際にも、購入時よりも高く本件各土地を売却し、ほかにも同様の土地売買をしていたのであるから、積極的に土地を買い求め、転売を図ったものではなくとも、営利目的で宅地建物取引業をしたことになる』として、宅建業法12条1項所定の無免許営業に該当すると判断されました。

    (3)無免許営業行為のほう助
     正犯の実行行為を容易にする手助けをすることを、「ほう助」といいます。刑法には、「正犯をほう助した者は、従犯とする」と定められており(同法62条1項)、ほう助行為を行った者についても、減刑されますが、正犯と同様に刑罰が科されます。
     本件では、Xが平成30年5月31日から令和元年5月28日までの間、4回にわたって情報提供を行い、無免許営業によるAを契約当事者とする売買契約を成立させていたことについて、『買主に対する取引物件の情報提供、売主と買主との間の取引条件の調整、買主に対する契約金の調整および重要事項の説明やその他の行為は、本件各取引を容易ならしめるものである』『Aが行った宅地建物取引業の無免許営業は、期間の長さ、取引物件の個数、売買代金の額などからすると、必ずしも軽微とはいえない。Xは、その事情を知った上で仲介業者としてこれをほう助したもので、その刑事責任は軽視できない』として、罰金刑が言い渡されています(図表2)。

     

  • まとめ

     宅建業者の役員や使用人が、宅建業法に違反して罰金の刑に処せられたことは、宅建業者としての免許の取消事由です(宅建業法66条1項3号、5条1項6号)。無免許営業に協力するようなことがあれば、刑罰が科され、宅建業者としての免許が取り消されます。宅建業者は、自らが違法行為を行ってはならないことはもちろんですが、他人の違法行為に関与することがあってはならないということについても、この機会に改めて確認していただきたいと思います。

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