法律相談

月刊不動産2010年7月号掲載

消防設備の瑕疵

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

当社が購入した営業用建物について、購入後、消防設備に関する法令違反があることが判明しました。売主に対して、瑕疵担保責任を追及できるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1(回答)

     消防設備に関する法令違反は、目的物の隠れた瑕疵に当たります。したがって、売主に対して、瑕疵担保責任を追及することができます。

    2(瑕疵担保責任)

     売買契約の売主は、売買契約において、隠れた瑕疵についての損害賠償責任を負います(民法570条本文、566条1項)。

     瑕疵とは、物の欠点・キズを意味する語句であり、売買契約の目的物が、本来の姿と比較して不完全な部分があり、物として取引上備えるべき品質・性能を具備していない場合に、瑕疵が認められます。加えて、瑕疵が「隠れた」ものであることも、瑕疵担保責任の要件です。「隠れた」とは、欠点・キズが外部に現れていないことであり、売買契約時に、買主が、欠点・キズの存在を知らず(善意)、かつ、欠点・キズの存在を知らないことについて過失がなかった(無過失)ことを意味します。

     また、瑕疵担保責任に関する民法の規定は任意規定ですから、法律の定めと異なる特約も原則的に有効ですが、売主は自ら知っていた瑕疵については特約の効力を主張できません。

    3(裁判例)

    (1)隠れた瑕疵

     買主Xが、売主Yから、営業用の建物(本件建物)及びその敷地を購入したところ、購入の3年5か月前に消防署の立入検査を受けて屋内消火栓の不設置及び地下1階駐車場部分における特殊消火設備の不設置につき消防法違反の事実(本件違反事実)を指摘され、検査結果の通知書(平成15年立入検査結果通知書)の交付を受けていたものの、違反が改善されないまま売買がなされており、その事実が購入後に判明した、というケースがありました(大阪地裁平成22年3月3日判決)。

     裁判所は「①屋内消火栓の不設置については、消防法17条1項及び同法施行令11条に、②地下1階駐車場部分における特殊消火設備の不設置については、消防法17条1項及び同法施行令13条に違反するものであって、平成15年立入検査結果通知書により、所轄の消防署から改善を求められていたというのであり、本件建物を、消防法との関係で適法に使用するためには、相応の改修費用の支出が必要となるのであるから、本件違反事実があることは本件建物の瑕疵に当たるというべきである。

     そして、YがXに対し、本件違反事実について説明したものと認めるに足りないし、本件建物に消防法違反の事実が存在するか否かについて、買主であるXにおいて所轄の消防署等に問い合わせる等して特別に調査すべき義務があるということはできないから、Xは、本件違反事実を認識していたものと認めるに足りず、また、本件違反事実を認識していなかったことにつき過失があるということもできない」として、本件違反事実を、民法570条所定の隠れたる瑕疵に当たるものと判断しました。

     Yは、本件違反事実の存在によって本件建物の使用に支障はない等として、本件違反事実は本件建物の瑕疵には当たらないと主張をしていましたが、この主張についても、「本来、建物は、消防法等の公法規制に適合した状態で使用されるべきものであるから、消防法等に違反していることを理由に直ちに建物の物理的な使用が妨げられない場合であっても、これをもって、当該建物に瑕疵がないということはできない」として退けています。

    (2)(免責特約)

     この売買契約には「売主は、一切の物的瑕疵担保責任(土壌汚染対策法その他関係行政庁の定める基準を超える土壌汚染並びに産業廃棄物等地中障害物等を含む)を負わないものとし、瑕疵が発見された場合であっても、買主は当該瑕疵に基づきこの契約の無効を主張し、又はこの契約を解除し、若しくは損害賠償の請求をすることはできない」とする特約が定められていました(本件免責特約)。

     しかし、法律上、売主が瑕疵担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができません(民法572条)。

     裁判所は「Yは、本件売買契約の締結に際し、本件違反事実を知りながら、Xに対しこれを告げなかったものと認められる。したがって、Yは、本件免責特約の存在にもかかわらず、Xに対して瑕疵担保責任を免れないというべきである」として、Yの特約に基づく免責も認めませんでした。

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