労務相談
月刊不動産2023年5月号掲載
有期労働者の無期転換申込権とは
野田 好伸(特定社会保険労務士)(社会保険労務士法人 大野事務所代表社員)
Q
弊社では正社員の定年を60歳としており、定年退職後は再雇用社員として1年契約で更新しています。また、再雇用社員の更新上限を5年間(65歳到達時まで)としています。近々、65歳到達者が発生するのですが、5年を超えて契約更新した場合、無期契約に転換しなければならないでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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回答
定年再雇用者についても5年を超えて契約を更新している場合、原則として「無期転換申込権」が発生します。ただし、会社が「継続雇用高齢者」の特例認定を行政から受けていれば、無期転換することなく有期労働者として契約を更新することができます。
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無期転換ルールとは
2013年4月に労働契約法が改正され「無期転換ルール」が規定(労働契約法第18条)されました。無期転換ルールとは、同一の使用者(企業)との間で有期労働契約が更新されて「通算5年」を超えたときに、労働者の申込みによって無期労働契約に転換されるルールのことをいいます。
この申込みは労働者の権利(無期転換申込権)であり、申込みをするかしないかは労働者の自由です。5年を超過した有期労働者が無期転換の申込みをすると、使用者が申込みを承諾したものとみなされます(使用者に拒否権はありません)。無期転換の申込みがあった場合、申込時の有期労働契約が終了する日の翌日から無期労働契約となりますが、申込権の発生時期と無期転換時期との関係については、図表1のとおりです。 -
転換後の労働契約の内容
無期転換後の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約の内容と同一となります。「無期転換すると、正社員にしなければならない( 無期転換= 正社員登用)」と誤った認識を持たれている方もいるようですが、無期転換ルールは、有期雇用が無期雇用に変わるだけであり、それ以外の労働条件は原則として同じものとなります。
「別段の定め」とは、労働協約、就業規則、個別契約書等を指しますが、無期転換にあたり、職務内容(役割・責任)等が変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を低下させるような別段の定めをすることは、無効と判断されます。また、無期転換権を行使しないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることもできません。 -
通算契約期間とクーリング期間との関係
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無期転換ルールの特例措置
無期転換ルールは、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的に導入されましたが、「高度専門職」と「継続雇用高齢者」については特例措置が設けられています。
60歳を定年年齢とし、定年退職後は1年毎の有期契約にて65歳到達まで再雇用する企業が多いと思われますが、再雇用後の通算契約期間が5年を超えて更新された場合も同様に無期転換申込権が発生するところ、適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主の下で、定年後も継続雇用される有期労働者(継続雇用高齢者)については、その事業主に雇用される期間は無期転換申込権が発生しないというのが、継続雇用高齢者の特例措置になります(図表3)。
なお、当該特例措置は定年再雇用者に限定して適用されますので、58歳で契約社員として新たに雇用された者が5年(63歳)を超えて継続雇用されている場合には適用されません。よって、当該契約社員が64歳時に無期転換を申し込んだ場合、次契約より無期契約となります。当該社員が適用される契約社員就業規則において、65歳、70歳等の年齢上限・定年年齢が設定されていなければ、年齢を理由に辞めていただくことは困難となり、本人が退職を申し出るか、解雇するかのいずれかとなりますので、ご留意ください。