賃貸相談

月刊不動産2011年8月号掲載

更新料に関する最高裁判決

弁護士 江口 正夫(海谷・江口法律事務所)


Q

建物賃貸借契約における更新料の有効性について最高裁判決が出されたと聞きました。今後は更新料については、どのように対応すればよいのでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.更新料に関する3つの大阪高裁判決

     平成23年7月15日、最高裁判所第二小法廷において更新料の有効性に関する3つの大阪高裁判決に対する判決が言い渡されました。最高裁で審理の対象となっていた3つの大阪高裁判決とは、①大阪高裁平成21年8月27日判決(大阪高裁で初めて更新料特約を無効と判示して話題となったもの)、②大阪高裁平成21年10月29日判決(同じ大阪高裁において更新料特約を有効と判断したもの)、
    ③大阪高裁平成22年2月24日判決(更新料特約を無効と判断したもの)の3つです。更新料の支払特約が有効であるか否かについては、同じ大阪高裁の中でも判断が分かれていました。

     上記3つの大阪高裁判決の論点は、大別すると、①更新料の法的性格、②更新料支払特約は消費者契約法10条前段の要件である消費者の義務を加重する特約であるといえるか、③消費者契約法10条後段の信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かの判断基準は何か、④本件各更新料支払特約は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものといえるか、という点にありました。

    2.更新料支払特約に関する最高裁判決

     平成23年7月15日、最高裁は、本件各更新料支払特約はいずれも有効であるとの判断を示しました。

    (1)更新料の法的性質に対する最高裁の判断

     最高裁は、更新料の法的性質について、「更新料は賃料とともに賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。」と説示しました。

    (2)更新料支払特約は消費者の義務を加重するか

     最高裁は、「更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。」と説示しました。

    (3)「信義則に反し消費者の利益を一方的に害する」との要件の判断要素

     最高裁は、かかる要件は、「消費者契約法の趣旨、目的に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。」と説示しています。

    (4)本件各更新料条項の有効性

     最高裁は、「更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは前記に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済合理性がないなどということはできない。」と説示して、
    更新料には一定の経済合理性が認められることを承認し、一定の地域において更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であること、従前から裁判上の和解手続等においても更新料条項は公序良俗に反するなどとしてこれを当然に無効とする扱いがされてこなかったこと等の事実を摘示した上で、
    これらのことからすると、「更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃貸人と賃借人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃貸人と賃借人との間に更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。」と説示し、
    これに基づき、「更新料条項は、更新料の額が、賃料の額、賃貸借契約が更新される期間に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものには当たらないと解するのが相当である。」との判断を示しました。
    その上で1年ごとに賃料の2か月分強程度の更新料を支払うことを内容とする更新料条項は消費者契約法10条により無効とすることはできないと判断しています。

     最高裁は、「更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され」ており更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合には、原則として、賃貸人と賃借人との間に更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について看過し得ないほどの格差が存すると見ることもできないとの判断を示した点に大きな意義があるものと思われます。

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