法律相談

月刊不動産2004年10月号掲載

数量指示売買における代金増額請求

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

民法上の数量指示売買としてなされた土地の売買において、土地の実測面積が売買契約書記載の面積よりも大きかった場合、当然に代金の増額請求ができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  •  民法に定める数量指示売買では、数量が超過していたとしても、数量超過の場合代金を増額するという合意がなければ、当然に代金の増額請求をすることはできません。したがってご質問のケースにおいても、代金増額の合意がない限り、土地代金の増額を請求することはできません。
     民法においては、他人の権利の売買について、「売買の目的たる権利の一部が他人に属するにより売主が之を買主に移転すること能わざるときは買主はその足らざる部分の割合に応じて代金の減額を請求することを得」(民法563条1項)と定め、この条文が「数量を指示して売買したる物が不足なる場合に於て買主が其不足を知らざりしときは前2条の規定を準用す」(民法565条)として数量指示売買にも準用されることによって、数量指示売買における売買代金の減額請求が認められています。
     そして数量不足の場合に代金減額を請求できることから、数量が超過する場合の代金増額請求も当然に認められるのではないかという点が問題になり、これを肯定する考え方もありました。
     しかし、最高裁は、「民法565条にいういわゆる数量指示売買において、数量が超過する場合買主において超過部分の代金を追加して支払うとの合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら、同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから、数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできないと解するのが相当である」(最高裁平成13年11月27日判決)として、増額請求を否定しました。
     土地の売買契約は、決済前に土地の実測を行い、売買契約書に定めた基準面積(以下、「基準面積」といいます)と実測による面積(以下、「実測面積」といいます)が異なるときには、基準面積と実測面積の差について、契約に定めた単価をもって清算を行う方式(以下、「実測売買」といいます)によって行われる場合があります。
     実測売買は、契約書において土地の単価と面積を示して売買する契約であり、数量指示売買と共通の要素をもちます。数量指示売買では当然には増額請求が認められないというのが裁判例ですので、実測売買において基準面積よりも実測面積の方が大きいときに代金を増額することにするのであれば、売買契約書において、このことを明確に定めておかなければなりません。
     実測売買における実測については、次の点に留意をしておくことが必要です。
     まず通常、実測は、土地家屋調査士など資格のある者によって行われます。資格のない素人が寸法を測っただけでは、実測にはならないと考えるのが一般的でしょう。
     次に実測は、隣地所有者等の立会いを得て、境界を確認しながら行われるべきです。境界確認は、境界標によって確認するのが本来の方法ですが、塀や樹木など疑義のない客観的な目印があるのであれば、この目印を確認することによって、境界を確認したことになることも多いと思われます。
     また国や自治体の担当者の立会いを得て行う公有地との境界確認や官民査定といいますが、官民査定のための国や自治体の対応には、相当な時間がかかる場合があります。他方国や自治体の場合にはその対応がある程度予測がつくために、官民査定は省略しても差し支えのないことも少なくありません。官民査定を待つ時間的なゆとりのない取引においては、官民査定を省略することもひとつの方法です。実測に関しては、官民査定の必要性も売主と買主の間で決めておく事項です。
     なお実測は専門家によって行われるもので、相当の費用がかかることから、実測の費用負担も売主と買主の間で合意しておく必要があります。 
    ところで土地の境界については、訴訟において裁判官が定めるのではなく、登記官が確定することとする制度の創設が準備されています。宅地建物取引業者としては注目をしておく必要があります。

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