法律相談

月刊不動産2012年11月号掲載

接道の説明

弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)


Q

仲介会社の紹介により、宅建業者が所有する土地建物を購入しましたが、購入後、土地が道路に面しておらず、建て替えができないことが判明しました。売主宅建業者と仲介会社のそれぞれに対し、損害賠償請求をすることができるでしょうか。

A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。

  • 1.回答

     売主宅建業者と仲介会社の両方に対して、損害賠償請求をすることができます。

    2.接道条件

     建物を建築するためには、原則として、その敷地が4m以上の道路に2m以上接していなければなりません(建築基準法43 条1項本文・42 条1項)。このルールを、接道条件(あるいは接道要件)といいます。土地を購入しようとする場合、建物建築(あるいは再築)の可否は最も重要な要因です。宅建業者が土地を売却しようとするときには、売主と仲介会社のいずれもが、買主に対して、接道条件を説明しなければなりません。

    3.千葉地裁平成23年2月判決

     接道条件を満たしていないことを説明していなかったとして、土地の買主から、売主と仲介業者の両方に対する損害賠償義務を認めたのが、千葉地裁平成23 年2月17 日判決です。買主Xは、居宅用の一戸建て住宅を購入したいと考え、平成5年10 月、宅建業者Yから、千葉市中央区の土地建物を、代金2,550 万円で買い受けたけれども、土地が接道条件を満たしていなかった(Xと隣地所有者Tの共有する路地には面しているが、この路地は幅員約2.7 メートルであり、道路にはあたらない)という事案です。Zが売主側の仲介業務を行っていました。裁判所は次のように述べて、YとZの責任を肯定しました。

    『1 宅地の売買においては、建築基準法上の接道関係は、建て替えの可否並びに転売の可否及び転売条件等に大きく影響するものである。そして、Y及びZは、いずれも不動産の売買及び仲介を業とする会社であり、宅建業者であるから、まず、Yについては、売買契約上の付随義務として、土地の接道状況についてXに対し説明する義務があったというべきである。

     また、Y及びZは、宅建業者であり、売主および仲介業者として本件売買契約に関与したものであるから、宅地建物取引業法3 5 条1 項により、それぞれ取引主任者をして、Xに対し接道状況について説明すべき義務を負っていたものである(同項2 号、47条1 号)。

     なお、買主に対する重要事項説明義務は、買主側の仲介業者にとどまらず、取引に関与した宅建業者すべてが負う(同法35 条1項、同法31 条、最高裁昭和36 年5月26日判決)。

    2 ア 本件土地は接道要件を満たしておらず、建て替えが困難な土地である。なお、本件隣地所有者Tが建替えを断念し、本件路地のうち一部(本件土地の接道を確保するために必要な部分)についてXの単独使用を認めることに同意すれば、本件建物の建て替えが可能となるとも考えられるが、Tの陳述内容からして、Tから上記同意を得ることは容易ではないと考えられる。

    イ ところが、まず、本件売買契約書には、この点について何ら記載がなく、むしろ、本件重要事項説明書には、本件土地の「北側が幅約6mの公道に約3m接している」旨記載され、「新築時の制限」としては道路斜線規制等が記載されているのみで、接道要件との関係での建築の制限については全く記載されていなかった。

     そして、Xは本件路地が共有であることについては説明を受けたものの、本件土地が接道要件を満たしておらず、建て替えが困難であることについては説明を受けたことがなかった。

    ウ 前記ア及びイによれば、Y及びZには、Xに対する説明義務違反(本件不法行為)があったことが明らかであって、Y及びZは、本件不法行為と相当因果関係にあるXの損害について賠償責任(不真正連帯債務)を負うというべきである(会社法350条)。』

     裁判所はまた、損害については、①接道要件が具備されていたときの価格は2,050 万円程度であることと、②Xが今後も居住を続けるという選択肢とを考慮にいれたうえで、接道条件を満たさないものとしての適正価格を1,500 万円程度として、売買価格とこの適正価格の差額に利息と弁護士費用を加えた額を、損害額と認定しました。

    4.まとめ

     このケースでは、購入者は物件での居住を継続しており、損害は現実化していません。しかし売主側のこの点についての反論に対しても、裁判所は『なお、Yらは、Xには現実の損害が発生していない旨主張するが、売買代金等の金員の出損自体が不法行為による損害であると認められるから、主張は失当である』と明言しています。宅建業者には、他山の石とすべき裁判例です。

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