法律相談
月刊不動産2013年3月号掲載
投資用マンション売買の消費者契約法違反による契約の取消
弁護士 渡辺 晋(山下・渡辺法律事務所)
Q
不動産会社から勧められ、投資用マンションを購入しましたが、契約前に示された市場価格には客観性がなく、収入支出のシミュレーションも非現実的なものでした。売買契約を取り消すことができるでしょうか。
A※記事の内容は、掲載当時の法令・情報に基づいているため、最新法令・情報のご確認をお願いいたします。
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1.回答
消費者契約法4条2項には、重要事項について消費者の利益になる旨を告げ、かつ、不利益となる事実を故意に告げなかったことによって、その事実が存在しないと誤認して契約をしたときには、契約を取り消すことができる、と定められています。この条項に基づいて、売買契約を取り消すことができます。
2.裁判例
ご質問と類似のケースにおいて、売買契約の取消しが肯定された裁判例があります(平成24 年 3月27 日判決)。
買主Yは売主Xから、投資用マンション2物件を購入しました(平成21 年2月24 日に2,840 万円の物件1、翌3月10 日に2,100 万円の物件2を、それぞれ購入)。しかし、売買契約締結に際し、売主Xの担当者らは、「通常3,130 万円であるが会社に無理をいって2,840 万円で押さえている」(物件1関係)、「借上げ物件なので部屋が空室になる心配はない」(物件2関係)などと説明し、また、家賃収入は30 年以上にわたり一定であり、月々の返済が小遣い程度で賄えるなど、Yを誤信させるシミュレーションを提示して勧誘を行っていました。
裁判所は、消費者契約法における不利益となる事実を故意に告げなかったとの要件について、次のとおり述べて、売買契約の取消しを認めて、Yに対し既払売買代金の支払を命じています。(1)平成21 年2月17 日、D(Xの担当者)及びDの上司であるEは、Yに対し、年金や生命保険の将来の不安などを説明し、経済アナリストのFも不動産投資を推奨しているとの雑誌を示しながら、新横浜の物件1について、Bさんからの紹介なので通常3,130 万円であるが会社に無理を言って2,840 万円で押さえている、ローン会社を紹介する、仮に将来不動産を売却する場合に、現在の物件価格から売却査定価格が10%低下したとしても、ローン残債を返して利益が出るなどと説明した。
これに対し、Yは、住宅ローンを抱えているため考える時間がほしいといったが、Eは、無理を言って新横浜の物件を押さえているので、今日明日中に返事を貰いたいと言った。そこで、Yは、急せ かされるままに書類にサインをし、仮契約を交わした。同月24 日、Yは、川崎駅近くのファーストフード店で再びE及びDと会い、新横浜の物件が倒壊したらどうなるのかと聞いたところ、Eは、戸数を増やして建て直すので増えた部分の収入も得られること、損をすることはないと回答し、加えて、Yが、Eに対し、X会社が倒産した場合の処理を聞いたところ、Eは、Yに対し、管理組合が存在し、別の会社に移管されるので心配ないと回答した。
Yは、小遣いで何とかできるものと誤信し、手付金を支払い、物件1の契約書に署名押印した。
(2)またさらに、同年2月末頃、Yは、京急川崎駅近くのファミリーレストランで、Eらと会い、物件2を紹介された。その際、Eは、Yに対し、物件2は大手会社N社の関連会社の借上げ物件なので部屋が空室になる心配はない、場所的にも良い物件であるなどと説明し、通常2,300 万円のところ、特別に2,100 万円で押さえているといい、さらに、物件2のシミュレーションを見せながら、頭金、住宅ローン、家賃収入などを比較して月々8,757 円の持ち出しであることなどを説明した後、直ぐに売れてしまうなどと物件1 と同様に購入を急かした。
Yは、2件で月々1万6,000 円程度ならば小遣いでやっていけるし、将来確実に資産になると思い、仮契約を交わした。その後、Yは、同年3月10 日、京急川崎駅近くのファミリーレストランでDと会い、物件2についても契約を締結した。
(3)本件契約は、投資の対象としてなされたものであるが、投資の回収時期に関して、Yは物件の市場価格に重大な関心を持っていることは当然であるから、物件1、2についての市場性について、Xが、Yに対し、何ら説明しなかったことは本件契約の重要事項について消費者であるYに不利益となる事実を故意に告げなかったものと認められる。
3.宅建業法のルール
宅建業者が、正当な理由なく顧客に対し契約を締結するかどうかを判断するために必要な時間を与えないことも宅建業法違反です(宅地建物取引業法施行規則16 条の12 第1号ロ)。このケースでDやEは、Yに契約締結を急かしていた事実もあり、その観点からも問題がありました。宅建業者は、過度なセールストークや常識の範囲を超える勧誘は行ってはなりません。